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「花冠の女の子の仕業、かしらねえ」
「まあ。十中八九、そうでしょうね。そんな口振りでしたし」
“時空の穴”で出会った、自らを『世界を創り替える者』と名乗る花冠の少女――。彼女は昶と亜耶を異世界に送り出す前に『私の世界を楽しんでいって』と口にした。
そこから思うに、この現象を引き起こした張本人は、花冠の少女で間違えは無いはずだった。
「――ってことは、あの子はこの世界の女神様? あのうっかり女神の同類?」
「正直なことを言うと、あの少女には“女神”のような神聖な気配を感じませんでした。内面にある魔力は、べったりとして暗くて重くて異質で――。どちらかと言えば“邪神”とか“魔王”とか。そういう類の表現が近い印象を受けましたね」
魔力の扱いに長けて気配を敏感に察する亜耶に、強く――、禍々しいとさえ思わせる魔力を感知させ、警戒心を抱かせるほどの花冠の少女。そのような魔力を帯びた存在が『女神』と呼ばれる者のはずが無かった。
そして、全ての行いは花冠の少女の、悪意無き自己中心的な目論見で間違えはないはず。
そこまで亜耶が口にしていくと、昶は同意を示すように首を幾度か縦に振るう。
「魔王、ねえ。まあ――、あたしから見たら女神も魔王も同じよ」
昶を異世界転生させた女神シリカも、うっかり手違いで普通の女子高校生として生活していた昶を事故死させている。しかも、あろうことか異世界転生の手続きの最中で、死にたてほやほやの昶の死体を本人に見せるほど。うっかりにもほどがある。
そうした女神シリカの所業を思い返し、亜耶に『邪神』や『魔王』と言わしめる花冠の少女も差して変わりがないと思う。
いや。寧ろ、転生先のことをある程度説明してくれた女神シリカの方が、碌な説明もないままで昶と亜耶を放り出した花冠の少女より幾分かマシなのかも知れない。
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