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「お昼の開業時間は11時から15時まで、その間の接客や注文取り、配膳をお願いするわね。詳しい話はシヲリに聞いてちょうだい」
部屋の片隅にある休憩スペース席で話を聞いていた少女が、名指しされた途端にパッと表情を華やかせた。
「はいはい、お任せあれ。ビアンカちゃんも昶ちゃんも亜耶ちゃんも、シヲリ先輩を頼っちゃってちょうだいね」
椅子を蹴る勢いで立ち上がるや否や、大きく挙手した少女――シヲリが嬉しそうに述べた。このシヲリがビアンカの友達である。
黒髪を脱色したと思しき明るい茶髪はハーフアップにされ、栗色の瞳は大きめでくりっとしている。年頃は昶や亜耶と同じくらいの、顔立ちの整った背の高い美人だ。
しかしながら、肩と背中が大きく露出した膝上丈の淡い桃色ワンピースドレスは、昼間の業務で着るには攻めすぎだろうとか思ってしまう。
「いやあ。ほんと、ビアンカちゃんが手伝いに来てくれて嬉しいよ。その上、美人なお友達まで連れて来ちゃってさあ」
マダム・ナツノが退室するのを傍目に、シヲリは捲し立てるように口にしていく。かなりテンションが高い性質なようで、ギャルに近い空気といえばお察しいただけるだろうか。
昶と亜耶が自己紹介した瞬間から「昶ちゃん・亜耶ちゃん」呼びで、良く言えば人懐っこい、悪く言えば馴れ馴れしいタイプだった。まあ、このような性格なら気兼ねも必要なく、ある意味で助かるともいえる。
「ねえねえ、お花の髪飾りは付ける? 付けちゃう?」
「あー、っと。それは遠慮しておくわ。あたしたち、昼間の手伝いだけのつもりだし」
これも業務内容書に記載されていたこと。――花の髪飾りを付けている女性従業員は、夜の業務も行っている印なのだ。かく言うシヲリの茶髪には白いブーゲンビリアを象った花飾りが付けられている。
この花飾りは、昼も夜も訪れる客が女の子の予約をする際に用いられ、夜の約束をして前金を払った客へ渡される。そして、花飾りを外した女の子は予約済みの印として手首に赤いリボンを結ぶそうだ。
「そっかあ、正直言うと夜の方が稼げるんだけどねえ。まあ、無理強いしても仕方ないし、変に勧めるとヒロ君に怒られちゃうから止めとこう」
ふうっと諦観の溜息を吐き、気を改めたのかシヲリはにっこりと再び笑顔を向ける。そして口を開き説明を続けていった。
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