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「それとさ。一つ、気になっていたことがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「あたしたち、相当高いところから落とされたじゃない。それこそ、成層圏ギリギリだったんじゃないかな。この世界をある程度、一望できちゃったくらいだし」
この異世界を完全に一望できたわけではなかったが、それでも随分と遠くまで眺め観ることができるほどの高さから、“紫電”の機体は墜落することになった。
いくら魔導機兵が特殊な金属で製造されていると雖も、遥か上空から海に叩きつけられたら無事では済まないはずだ。
「だけど、“紫電”の機体って無傷だったわよね」
「何か不思議な力が働いた、という感じでしたね。真っ逆さまに落ちたのに“紫電”は下肢部から着水しましたし、海面に叩きつけられた衝撃もありませんでしたし」
「そうそう。なんかフワッと落ちてさ。守られた、っていうのかなあ?」
海に叩きつけられると思った瞬間に、何らかの力が働きかけたのを昶も亜耶も感じていた。
“紫電”を慈しむような優しい気配が包み込むと同時に、機体は体勢を立て直し――。と思うと減速してふわりと海面に置かれた。
その不思議な現象が起こらなければ、“紫電”は海面に叩き付けられてバラバラになっていたかも知れないし、搭乗している昶も亜耶も無事では済まなかっただろう。
「……これも、あの花冠の少女の仕業、でしょうか?」
「どうなのかしらね。なんか、分からないことだらけよね」
花冠の少女の目的はなんなのだろうか。純粋に『自分のいる世界』を昶と亜耶に楽しんでもらいたいが故、二人を呼び込んだのだろうか――。
理解も想像もできずに昶も亜耶も言葉を出せず、再び黙り込んでしまう。
「うーん……。とりあえず、これ以上の魔力探索は無駄な気がしてきたわ。下に降りて、ヒロ君とビアンカちゃんにこの世界のことを聞いてみましょうか」
「そうですね。もしかしたら、花冠の少女のことを知っているかもしれませんし」
花冠の少女がヒロとビアンカの世界に関わる存在ならば、なにか有力な情報が聞けるかも知れない。
昶と亜耶は“時空の穴”の出入り口を探すことを諦め、“紫電”の機体を降下させていくのだった。
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