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「ヒロは時々『稀人』って言葉を使うけれど。それって何なの?」
ヒロが意味の通らぬ単語を口出したことでビアンカが問いを投げれば、ヒロは「ああ」と漏らし、何処か得意げな笑みを浮かべた。
「群島――、えっと。僕の故郷の古い言葉でね。今の時世だと『客人』を意味する俗語なんだけど、昔の意味だと『人知の及ばない他界からの来訪者』を示すものだったんだ」
「他界からの来訪者――。それじゃあ……」
思わぬ言葉で亜耶が口を挟む。すると、ヒロは「ご名答」と言いたげに口端を吊り上げて頷く。
「誰も見たことも聞いたことも無い遠いとおい場所から訪れた“稀人”は、僕たちに想像も及ばないような偉大な知恵や技術を授けてくれる。この“稀人”が一説によると余所の世界から来たヒト――、『異世界転生者』や『異世界転移者』だって言われていたんだよ。今は正しい意味を知る人が殆どいない言葉なんだけどね」
「ははあ。そうすると、ヒロ君たちの世界にある技術のいくつかは、異世界転生者や転移者が伝えたってところなのね」
「時計や写真機なんかが“稀人”の技術らしいよ。他にも焜炉とか湯沸かし機器、浄化水槽設備の仕組みなんかも、“稀人”が伝えた知識の応用だって話だし」
ヒロが饒舌に語っていった内容に、昶も亜耶も「なるほど」と溢していた。
ヒロやビアンカの世界に別世界から訪れた者の事例がある。しかも、彼ら『異世界転生者』『異世界転移者』は元の世界の知識や技術を持ち込み、異世界の生活水準に干渉する業績を残しているらしい。恐らく給われた事柄の数々は、この異世界にそぐわない時代錯誤遺物――、オーパーツとなっているはずだ。
しかしながら、昶も亜耶も偉業を成した功績者と一緒にされると、正直困ってしまう。自分たちは異世界に伝えられるものを持ち合わせていないのだから。
まさか期待されていないよね、と昶と亜耶が目配せで語らい合い薄ら笑いをする。示し合わせたように黒と金の二対の瞳がヒロとビアンカへ向くと――、期待に満ちた好奇心に輝く紺碧と翡翠の瞳が二人を見据えていた。
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