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ヒロの言う『稀人』として、異世界の人間に授けられる知識も技術も無いと動揺した昶と亜耶だったが――。そんな二人の焦りを知ってか知らずか、ヒロとビアンカが賜る知識として求めたのは、“紫電”に関してのこと。
その程度のもので済んで良かったと、昶も亜耶も内心で胸を撫でおろし、自分たちが知る限りの魔導機兵の話を簡単にしていった。
「へえ。こいつ、『魔導機兵』っていうんだ」
「そう。あたしたちがお世話になっている傭兵部隊“アトロポス”が主要にしているのが、この“紫電”って通称名が付いた魔動機兵よ」
「それじゃあ、昶さんと亜耶さんは傭兵として、これに乗って戦っているの?」
「あたしたちには『セレーネ』って名前を付けた別機種の魔導機兵があったんだけど……」
「普段は“フェンリル”という機体に乗っています。今回は傭兵部隊の汎用機である“紫電”に搭載予定だという、新システムと新装備のテスト代行の名目で、この複座型機体を借りていたんですよ。ちょっと気になるシステムで、興味を持ってしまったもので」
“紫電”はグレーのロービジ塗装が施された量産型の汎用機である。例えるのならば、某リアルロボットアニメのやられ役――、それでもコア層からの人気を誇る某連邦軍の赤と白が特徴的な機体や淡いグリーンカラーの量産機のような、やや無骨さの残るデザインだ。
この“紫電”に搭載が予定されていた新システム及び新装備の実装テストで、昶と亜耶は新しいものに興味を抱いき、テストパイロットに名乗りを上げて偶々“紫電”に搭乗していた。
本来であれば、昶と亜耶は“フェンリル”の通称名を持つ魔導機兵を所有し、扱っている。複座機にするなど、専用に様々なカスタマイズをされた機体は、『セレーネ』というギリシャ神話の月の女神の名を付けられている。濃いブルーと明るめのブルーで二色塗装が成され、“紫電”以上にスマートでフォルムが美しい。
機体の性能や装備を維持するため、傭兵業だけでなく他のアルバイトにも勤しんで維持費を稼いでいるが、あの子を良い状態に保つためならば頑張れる。この『セレーネ』をお見せできないのが非常に残念――、と。昶が悲観と自慢を複雑に織り交ぜて多弁に綴った。
「へー……、なんか言っていること、正直よく分からないけど。ただの偶像じゃなくて、凄く大きな鎧ってところか。でも、こいつ自体に攻撃手段が色々あるみたいだし、武器とも言えるのかな」
昶の熱弁をヒロは『よく分からない』の一言でバッサリ切り捨て、自分なりの解釈を口にする。あまりにもあっさりとした返しに、昶は思わず肩を落とした。
「ま、まあ。武器や鎧って言い方も語弊があるんだけど、そんな感じかなあ」
魔導機兵はアニメで言うところの人型機動兵器である。『兵器として何らかの武装が施されたリアルロボット』が概要なので、武器や鎧と呼称してしまうには大分違う。
だけれども、そんな話をヒロやビアンカにしたところで一切通じないだろう。なにせ、この異世界の重火兵器の知技は先込め式のマスケット銃止まりなのだから。これは初めて出逢った際に、昶のオートマチック拳銃で威嚇射撃をされたヒロが連射できることで大いに驚いていたため、知見として間違えは無いはずだった。
そして、自然豊かな印象を受けた異世界に、その自然を壊しかねない知識や技術を残していくのも気が引ける。
だので、ちょっとした勘違いの解釈は正さずに放任してしまおう。そう考え、昶は亜耶と目配せをし合い、魔導機兵に関わる詳細な情報伝達を控えるのだった。
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