<昶と亜耶>

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「新システムも順調ね。動きも申し分無し」 「ですね。周域の魔力が不安定でどうなるかとは思いましたが……」  “紫電”に飛行ユニットであるランドウイングを装備して、青と白のコントラストが清々しい空を飛ぶ。  亜耶の言う通り、テスト飛行に入ってから気が付いたが、周辺空域の魔力が妙に濃さを持つ場所もあり、不安定だった。  魔力の流れに左右される魔導機兵――、“紫電”の推移装置調整に僅かばかり手間取ったものの、空中での新システム試験も(おおむ)ね順調。これならば実戦で運用しても問題は無さそう、という印象だ。  無事にテスト飛行も終わりに差し掛かり、昶も亜耶も安堵を浅い溜息として表した。  昶と亜耶が搭乗する魔導機兵は人型のロボット――。例えるのであれば、某有名アニメ制作会社のリアルロボット系なスマートな見た目。滑らかに関節を動かす複雑な構造は、某アニメで地球人を滅亡させようと躍起になった某公国が採用した某システムかというくらい、魔導機兵を初めて目にした際に昶を感動させた。 『某』『某』と言っているのは仕方がない。何分と現代(いま)のアニメ業界はうるさいのだ。――などと、少々のメタフィクション発言を脳内で一人ツッコミさながら、昶は考える。  昶はこの世界の生まれではない。彼女は不測な最期――、うっかり女神による手違いの事故死を迎え、別世界から転生した『異世界転生者』だ。  元々の世界ではオタクな女子高校生として生活していた、極々普通の少女。唯一、『極々普通の』から逸脱しているのは、昶の有するオタク趣味が二次元全般のみならず、ミリタリー好きかつ父親の職業という切っ掛けが嵩じて天才的な銃撃の腕前を持つ射撃の名手だったり、鉄道好きだったりなどなど。オタク乙女の趣味とは一言に言い難いものを持つことだろう。  その昶の相方である麗しい見目の少女――、亜耶は『転生者カテゴリーⅡ』と呼ばれる特殊な出自。  出生の大本が昶の生前に描いた一次創作(オリジナル)同人誌の主人公。昶にとっての欲望という名の創作欲が生み出した理想の美少女――。そんな亜耶は、(くだん)のうっかり女神の配慮によって、昶を追う形でこの世界に姿を現した。言うなれば、亜耶は昶にとって娘であり妹でもある存在だった。  殆どのことについては、同人誌(そうさくぶつ)からの設定がある故に俗に言う『チート』なレベル。内に秘める魔力量も桁違いなので、“紫電”の制御に関しては亜耶が一手を担っていた。
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