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闇の中を蛍のような淡い白光の粒が漂う。心許ない灯を頼りに辺りを見回そうとも、目に映るのは黒ばかり。
“紫電”のエンジンは起動したままだが、操作を試みてもどういうわけか機体が動くことは無かった。
昶も亜耶も何事なのかと焦りを窺わせ、困窮を互いの瞳で物語る。
「あ、亜耶……。これ、どういうことなのよお……」
「流石に……、分かり兼ねますね。あの魔力の濃さから言うと、魔力の影響で時空に歪みが生じて、“時空の穴”に引き込まれた感じでしたが」
突として辺りに感知した魔力――。その異様な濃度の魔力が空に影響を与え、時空の歪みを作り出したのか。それとも何処かから魔力が流れ込み、何も無いはずの空を貫いたのか。
それは魔力の扱いに長けた亜耶にも分からなかった。唯一解せたのは、起こった事象が異常だったというだけだ。
「兎に角、この空間から脱出することを考えないと。下手をしたら、時間の流れすら止まった場所で、死ぬこともなく一生このままですよ」
もし、ここが時空と時空の狭間にある世界――、“時空の穴”ならば、時間の流れが介入しない世界だ。空腹を訴えることも無く老いも死も無く、唯一あるのは黒い闇と虚無に過ごす日々だけという異質な場所である。
その空間かも知れないと亜耶が口出せば、昶のかんばせが立ちどころに青くなり、途端に頭を抱えてしまう。
「うーわーっ! それはシャレにならないわ!! それだけはご勘弁をっ!!」
年を取らずにいられるのは嬉しいけれど、一生をこのような場所で過ごしたく無いなどなど。昶がつらつらと口数多く捲し立てれば、亜耶の頬が僅かに引き攣った。
焦って困窮しているように見せて、実のところ余裕があると。亜耶が心中で呆れを吐露していると、不意と耳に何かが聴こえた。
「昶、静かに……。なにかが、聞こえます」
「え?」
そう言われ、昶も周りの音に注意を払う。
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