<昶と亜耶>

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「――女の子の、笑う声?」  “紫電”の機体を微動させる魔法動力炉のエンジン音以外は、何も聴こえない静寂のはずだった。  だけれども、黙して耳を澄ました際に聞こえてきたのは、くすくすと鈴が転がる音のような女性――、否、少女の笑い声。  このような場所で何事だと思うと――。“紫電”の前方、黒い闇の空間にふわりふわりと浮かぶ人影が目につき、吃驚してしまう。 「や、ややや、やだっ! お化けっ?!」  昶が逃げ場無くシートに背を押し付け、上擦った声を上げた。それに亜耶が否を示し、ゆるりと(こうべ)を振るう。 「いえ。実体はあるようなので、幽霊の(たぐい)では無さそうですが――。底無しの魔力を感じます。あの“時空の穴(ワームホール)”発生の時に感じた魔力と同じ」 「えええ?! それじゃあ、あれって人間っ?!」 「人間……、とは言えないんじゃないかと」  なんとも対照的な反応の会話がコックピットで繰り広げられる中、徐々に闇に目が慣れて人影の正体が露わになっていく。  昶と亜耶の前に姿を現したのは――、二人よりも幾許(いくばく)か年下そうな見目をした少女だった。  少女は闇に亜麻色の長い髪と、柔らかに裾のなびく白いワンピースドレスを揺らし、色とりどりの花で飾られる冠らしきものを頭上に頂く。その花冠も花が溢れるほどに編み込まれて少女の目元を覆い隠し、全体の表情を窺えずに薄桃色をした唇だけが確認できる状態だ。  いつの間に現れたのかが解せぬまま、ただ少女から敵意を感じないのだけは理解できた。だけども、油断は禁物である。  注意を払い、身構える。何者だろうか、意思の疎通はできるのだろうか。さようなことを遅疑逡巡と思い馳せ、昶と亜耶は少女を見据えた。
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