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「私たちを“時空の穴”に引き込んだのは、あなたですね?」
“紫電”の外部スピーカーをオンに切り替え、亜耶が問いを投げる。すると、露わになっている少女の唇が楽しげに弧を描いた。
「ふふ、そうよ」
鈴鳴りの声が返弁を立てる。その応じに意志の疎通はできるらしいと、亜耶は領得から軽く首を縦に動かす。
「しゃ、喋った! あたしたちの言葉は通じるのね……」
「そのようですね。いったい何者なのでしょうか」
「雰囲気的に亜耶と似た感じがする、わよね。創作物の臭いというか、なんというか」
少女の有する普通の人間とは違った異質な気配や見目。それを昶が『創作物の臭い』と例えたことで、亜耶は「なるほど」と思う。
そこで新たな疑を問うために、亜耶は口を開いていた。
「あなたは私と同じ、『転生者カテゴリーⅡ』ですか? このような場所に引き込んで、何が目的です? ラティス帝国の手の者なのですか?」
亜耶が思い浮かんだ疑問を矢継ぎ早に口出せば、少女の口元が呆気に取られた様を彩った。
少女は問いの内容を咀嚼するように黙し、頬に指先を押し当てて一顧する。
どのように答えるべきかを逡巡と考える様相を、昶と亜耶が固唾を飲んで見守っていると、少女の頬に当てていた手がゆるりと降ろされた。
「えーっと……、一度に質問をされると困っちゃう。一つひとつ答えていくわね」
悪意も犯意も一切感じさせない声音で少女は言うと、薄桃色の唇が微笑みを浮かせた。
「私は『転生者カテゴリーⅡ』とか言うものでは無いわ。私は『世界を創り替える者』――、みんなは私のことを“花冠の女王”や“黎明の立役者”って呼ぶわね」
「『世界を創り替える者』? 花冠? 黎明……、って何よ、それ?」
そのようなものを聞いたことは無い。何を言っているのだろうか、と。少女の言葉を昶と亜耶が鸚鵡返しにして新たな疑問を口端に出せば、少女は「新しい質問はダメよ」と、ころころ笑って制する。
「次の質問の答え。――私、あなたたちにまた逢いたかったの。だから、呼んだのよ」
「「は?」」
慮外な少女の回申に、昶と亜耶の唖然とした声が重なった。
『また逢いたかった』と言われはしたものの、昶にも亜耶にも少女に覚えが無かった。完全に初対面だと思われる。
しかしながら、少女の方は二人の戸惑いを意に介さず、口元にふわりと微笑みを湛えていた。
「強引に招き入れるような真似をして、ごめんなさい。急に思い出して、懐かしくなって。居ても立ってもいられなくなって、あなたたちの世界に手を伸ばしたの」
「ね、ねえ。あなたはいったい何なの? あたしたち、あなたとは会ったこと無いでしょう?!」
「そうです。誰かと間違えていませんか」
思ってもいない少女の言葉で、昶と亜耶が焦燥を窺わせる。だが、少女は話を聞いているのかいないのか――、尚も微笑んだまま。
と思えば、少女はぱんっと音を立てて両手を合わせ、良いことを思いついたと言いたげな仕草を見せた。
「せっかくだし、私のいる世界を楽しんでいって。うん、それが良いわ。そうしましょう。きっと私があの人と一緒に歓迎してくれるから――」
自分の提案に自分で楽しげに賛成し、少女は身を捩ると後方へ向かって腕を広げる。
すると、立ちどころに闇が晴れ――、視界が開けていった。
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