<昶と亜耶>

7/7
前へ
/219ページ
次へ
「私たちを“時空の穴(ここ)”に引き込んだのは、あなたですね?」  “紫電”の外部スピーカーをオンに切り替え、亜耶が問いを投げる。すると、露わになっている少女の唇が楽しげに弧を描いた。 「ふふ、そうよ」  鈴鳴りの声が返弁を立てる。その応じに意志の疎通はできるらしいと、亜耶は領得から軽く首を縦に動かす。 「しゃ、喋った! あたしたちの言葉は通じるのね……」 「そのようですね。いったい何者なのでしょうか」 「雰囲気的に亜耶と似た感じがする、わよね。()()()()()()というか、なんというか」  少女の有する普通の人間とは違った異質な気配や見目。それを昶が『創作物の臭い』と例えたことで、亜耶は「なるほど」と思う。  そこで新たな疑を問うために、亜耶は口を開いていた。 「あなたは私と同じ、『転生者カテゴリーⅡ』ですか? このような場所に引き込んで、何が目的です? ラティス帝国の手の者なのですか?」  亜耶が思い浮かんだ疑問を矢継ぎ早に口出せば、少女の口元が呆気に取られた様を彩った。  少女は問いの内容を咀嚼するように黙し、頬に指先を押し当てて一顧する。  どのように答えるべきかを逡巡と考える様相を、昶と亜耶が固唾を飲んで見守っていると、少女の頬に当てていた手がゆるりと降ろされた。 「えーっと……、一度に質問をされると困っちゃう。一つひとつ答えていくわね」  悪意も犯意も一切感じさせない声音で少女は言うと、薄桃色の唇が微笑みを浮かせた。 「私は『転生者カテゴリーⅡ』とか言うものでは無いわ。私は『世界を創り替える者』――、みんなは私のことを“花冠の女王”や“黎明(れいめい)の立役者”って呼ぶわね」 「『世界を創り替える者』? 花冠? 黎明(れいめい)……、って何よ、それ?」  そのようなものを聞いたことは無い。何を言っているのだろうか、と。少女の言葉を昶と亜耶が鸚鵡(おうむ)返しにして新たな疑問を口端に出せば、少女は「新しい質問はダメよ」と、ころころ笑って制する。 「次の質問の答え。――私、あなたたちに()()()()()()()()の。だから、呼んだのよ」 「「は?」」  慮外な少女の回申に、昶と亜耶の唖然とした声が重なった。 『また逢いたかった』と言われはしたものの、昶にも亜耶にも少女に覚えが無かった。完全に初対面だと思われる。  しかしながら、少女の方は二人の戸惑いを意に介さず、口元にふわりと微笑みを湛えていた。 「強引に招き入れるような真似をして、ごめんなさい。急に思い出して、懐かしくなって。居ても立ってもいられなくなって、あなたたちの世界に手を伸ばしたの」 「ね、ねえ。あなたはいったい何なの? あたしたち、あなたとは会ったこと無いでしょう?!」 「そうです。誰かと間違えていませんか」  思ってもいない少女の言葉で、昶と亜耶が焦燥を窺わせる。だが、少女は話を聞いているのかいないのか――、尚も微笑んだまま。  と思えば、少女はぱんっと音を立てて両手を合わせ、良いことを思いついたと言いたげな仕草を見せた。 「せっかくだし、私のいる世界を楽しんでいって。うん、それが良いわ。そうしましょう。きっと()()()()()()一緒に歓迎してくれるから――」  自分の提案に自分で楽しげに賛成し、少女は身を捩ると後方へ向かって腕を広げる。  すると、立ちどころに闇が晴れ――、視界が開けていった。
/219ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加