<花冠の少女>

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 一方、その頃――。 「ヒロ君とビアンカちゃんがさ、はぐれるフラグを立ててくれたなとか感じたのよ」 「右に同じく。ただ、口に出してしまったら本当のことになってしまう気がして。あえて言いませんでしたが……」 「……言っても言わなくっても、完全にはぐれたわね」 「そうですねえ……」  走ることを諦め、速足気味に路地を進む。左右を見回しても続くのは背の高い垣根と石垣、先も複雑に入り組んでいるだろう曲がり角。 『右か左か人生コース』などと、某猫型ロボットの話に出てきたような人生に関わる大事(おおごと)にはならないが、進めば良いのは右か左かサッパリと分からない。  リュウセイの子分である海賊たちから、花冠の少女がイリエ衆の海賊に追われている報告を受けた。  そこから花冠の少女を保護するため、ヒロとビアンカと共に酒場を飛び出した。――までは未だいい。 『はぐれないように気を付けて』『頑張ってついてきてね』と立て続けに述べられ、嫌な予感はした。  だので、絶対に遅れるものかと意気込んだものの、あれよあれよとヒロとビアンカの背が小さくなり、知らぬ間に何処かの角を曲がってしまったのだろう。気が付けば昶と亜耶は、土地感の無い場所に置いてけぼりである。  早くしなきゃと思うのは理解できるし、責める気はない。でも、もう少し後ろにも気を遣ってほしい。猪じゃないんだから――。などと溜息と併せてぼやき漏らす。  視線を上目に歩んでいくと、背の低い建物と建物の合間から首都ユズリハの城が窺える。  首都ユズリハは、海から山に沿った階段状に造られている。町中は山の勾配そのままで、階段や坂が多い。なので例え路地にいようとも、山の上に作られた城が眺められる。 「てか、さ。異世界の人の足腰の強さを見せつけられたわね」 「ですね。なまじ移動手段が発達している私たちの世界とは、比べ物にならないくらい強靭な足をしていると思います。あっという間に引き離されましたし」  昶や亜耶の世界には、自動車などの移動手段があった。長距離の移動のみならず、ちょっとそこまでレベルの移動でも乗り物を利用することが常で、運動不足が懸念される。  反目でヒロとビアンカの世界での移動手段は、文化レベルから思うに、せいぜい馬車くらいではなかろうか。そこへ更に階段や坂の多い土地で暮らすのだ。足腰が丈夫なのも納得できるというもの。 「うんうん。――というか、どうする?」  城へと向いていた黒色の瞳が、ちらりと亜耶を映す。その視線の流れに、昶の思惟(しい)を察した亜耶は首肯(しゅこう)した。 「地上から見つけられないのであれば、()()()()()のが妥当でしょうね」 「そうよね。早く花冠の女の子に会わないといけないし、急ぎましょっか」  作為を口に出さずとも、互いに意図は通じたようだ。同調から頷き合い、昶と亜耶の足は赤瓦の屋根が特徴的な首都ユズリハの城へ向かうのだった。
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