閑話<潮風そよぐ浜辺で>

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*** 「僕ね、アレがやりたい。――白い部屋でやったやつ。ポッキーゲーム!」  浜辺の隅――、今は人気(ひとけ)の無い休憩所。シェード屋根を支えた梁に草花の(つた)が絡む日陰棚(パーゴラ)をくぐった早々、ヒロが快活に発した第一声。  それを耳にした途端に、昶は可笑しそうにくすっと笑いを溢した。 「なになに。ヒロ君ってば勝負がつく前から決めてた感じ?」 「いやいや、流石に違うって。ここに来るまでに何にしようかなって考えていて、ポッキーゲーム(あれ)がいいかなって思ったんだ」  白熱したビーチボールバレー勝負だったが、試合は16対14で終了。結局は昶とヒロ側の勝ち逃げとなった。  最後の最後で繰り出された昶とヒロの連携アクロバティックアタックは、勢いに圧された亜耶とビアンカの反応を遅れさせた。  我に返った亜耶が咄嗟にバックトスでビアンカへ回すものの、慌てたビアンカが海面に足を取られて転倒し――、と結果は振るわなかったのだ。  そして、その後に一休みしようということになり、海から離れた休憩所に訪れて今に至る。 「ポッキーゲームって。そういえば、ヒロってば……その、あの時、ユキさんと……、き、ききき、キス、しちゃってた……」 「してないっ! ギリで決してチューなんてしてないからっ!!」  ビアンカが恥じらい混じりに言えば、間髪入れずにヒロの指摘が飛ぶ。  昶と亜耶と初邂逅を果たした条件を満たさないと脱出できない白い部屋――。『全員がポッキーゲームで親睦を深める』が条件だった部屋での出来事は、ヒロにとって悪夢ともいえる事件だった。  見る角度によっては怪しかったかもしれないけれど、ギリギリで勝負がついていた――はずである。昶やアユーシの焚き付けに逆らえずにユキ()とポッキーゲームをしたが、唇が触れたか触れていないかは正直に言うと覚えていない。  なので、たぶん寸前の未遂だと思う。うん、そういうことにしよう――、というのがヒロの結論だ。 「まあ……、罰ゲームの内容として、ポッキーゲームは妥当な気がしますね」 「でしょでしょ。この前のリベンジも兼ねて、女の子とやれたら良いなってさ」 「えっと、ヒロに言いたいことは色々とあるんだけど。――そもそも、ポッキーってあの時に初めて見たじゃない? あんなに細長いお菓子ってあるのかしら?」 「う……、そうだった。あのちょっとした力加減で折れちゃうほど細いお菓子、売ってるの見たことないや……」  どうやらヒロとビアンカの暮らす世界には、ポッキーやプリッツのような極細身な菓子が存在しないようだ。  機械類の進歩が遅れ気味な雰囲気ではあったし、あの手の菓子を手作りで生産となると技術やコスト諸々で未だ難しいのだろう。
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