真っ赤に熟れたリンゴの月

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真っ赤に熟れたリンゴの月

 昔、月が美しいことで有名な街があった。  そこは、開拓者たちによって作られた荒野の真ん中にある街だった。  荒野には夜になると、まばゆいほどの光を放つ満月が昇ってくる。  その景色を見るために、たくさんの旅人がこの街を訪れた。  ところがある日、この街から見える月が、真っ赤に染まった。  誰にも原因はわからなかった。  街に住む人々は、これは何か恐ろしいことの前触れに違いないと震え、恐れた。  そうして皆、この街から去ってしまった。  残されたのは、荒野と、街と、空に昇る真っ赤な満月だけだった。  時は流れ、あるとき、この街に一人の少女がやってきた。  少女は旅人だった。  世界中のさまざまな場所へ行き、時には人が寄りつかないような危険な場所も訪れた。  少女は本当に旅が好きだったので、どんな危険も苦にならなかったのだ。  少女は荒れ果てた街の片隅に腰を下ろして、空を見上げた。  遮るもののない、澄み切った夜空だった。  空には、リンゴのように丸くて赤い月が出ていた。 「リンゴみたいでとってもおいしそうな月ね」  少女は一人でそうつぶやいた。すると、驚いたように月が少女のほうを見た。 「本当にそう思いますか?」  月は、少しだけ悲しそうな目をしていた。 「みんな私のことを見て、不吉だ、何か悪いことの前触れに違いない、というのに」  真っ赤な月はそう言うと、疲れ果てたように下を向いた。 「そんなことはないと思う」  少女はそう答え、月に向かって手を伸ばした。 「こんなに丸くて、きれいで、ぽってり熟れておいしそうなのに、不吉だなんて。一体誰が言い出したの?」 「さあ、誰だったのでしょうか」  月は、誰が最初に自分を不吉だと言い出したのか知らなかったので、少女の言葉に首を傾げた。その顔から、少しだけ悲しみが消える。 「それが誰だったのかはわかりません。でも、あなたのような人に出会えて良かった」 「私も。今日、あなたとお話しできて良かった」  少女が月に向かって笑顔を見せると、月も笑った。 「ありがとう、人間さん」 「こちらこそありがとう、お月様」  それから二人は少女が持ってきた赤いリンゴを分けて食べ、もう一度笑顔を交わして別れた。  少女が荒野の中をずっと遠くまで歩いて行くのを、月はいつまでも見守っていた。
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