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エピローグ(10)
愛可は、困った。上の子の真純は、産まれた時からわりと情緒が安定していて、さほど手を煩わせなかったのに、この子はかなり神経質で、ちょっとのことですぐに目を覚ますし、今みたいに泣いて騒ぐ。
それでも、愛可は、この子が愛しくて、かわいくて、仕方がなかった。上の子に対してもそうだが、うんと甘やかして育てると神に固く誓っている。
かつての分も取り返すくらいに、うんと、うんと、たっぷりと。
「遥、泣かないで」
愛可は、我が子の名前を呼んだ。
呼んだ瞬間、涙が瞳に膜を張った。愛可は、自分でもそのことに驚いた。
(私が泣いてどうするの)
そう思い直して、顔中をくしゃくしゃにして笑ってみせた。
「遥、泣かなくても大丈夫だよ」
遥は、母親の言葉が分かったかのようにぴたりと泣き止んだ。そして、涙に濡れた目で、じっと母親を見つめた。
(本当に、もう大丈夫か?)
とでも言いたげに。
「大丈夫だよ。もう、怖いことも、いやなことも、あなたの身には何一つ起こらないんだから」
愛可は、遥の体をそっと揺すりながら、子守唄でも口ずさむように節をつけて言い聞かせた。
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