エピローグ(10)

1/1
前へ
/485ページ
次へ

エピローグ(10)

 愛可は、困った。上の子の真純は、産まれた時からわりと情緒が安定していて、さほど手を煩わせなかったのに、この子はかなり神経質で、ちょっとのことですぐに目を覚ますし、今みたいに泣いて騒ぐ。  それでも、愛可は、この子が愛しくて、かわいくて、仕方がなかった。上の子に対してもそうだが、うんと甘やかして育てると神に固く誓っている。  かつての分も取り返すくらいに、うんと、うんと、たっぷりと。 「遥、泣かないで」  愛可は、我が子の名前を呼んだ。  呼んだ瞬間、涙が瞳に膜を張った。愛可は、自分でもそのことに驚いた。 (私が泣いてどうするの)  そう思い直して、顔中をくしゃくしゃにして笑ってみせた。 「遥、泣かなくても大丈夫だよ」  遥は、母親の言葉が分かったかのようにぴたりと泣き止んだ。そして、涙に濡れた目で、じっと母親を見つめた。 (本当に、もう大丈夫か?) とでも言いたげに。 「大丈夫だよ。もう、怖いことも、いやなことも、あなたの身には何一つ起こらないんだから」  愛可は、遥の体をそっと揺すりながら、子守唄でも口ずさむように節をつけて言い聞かせた。
/485ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加