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生き残りゲーム(1)
今日、十二月十日は、城之内遥の誕生日にあたる。今年で彼は、二十二歳になった。
遥は、今日という日を、一年の内でもっとも深く憎んでいる。今日こそが、すべての元凶の源なのだ。そう思うたびに遥は、自分で自分の腹を裂き、内臓をえぐり出したい衝動に駆られる。
遥は今、自分の部屋にいた。電気はつけず、二つの燭台のろうそくに火を灯した。一つを暖炉の上に、一つをテーブルの上に置き、彼自身はテーブルの横に立っていた。
暖炉脇の壁時計を見る。ペン先の形をした分針が、夜の十時を刻もうとしていた。あと二時間で、今日という日が終わってしまう。遥としては、なんとしてでもその前に、自分の人生にけりをつけたかった。
(これで、なにもかも終わるんだ)
冷たくずっしりとした重みのある拳銃が、遥の手に載せられている。手と拳銃の間には、汗がぬるりと染み込んでいた。暖炉の火が盛んだからではない。というか、暖炉には火が入っておらず、室内は、歯がかちかちと鳴ってしまいそうなほど寒い。
それでも、遥の全身の毛穴からは、先ほどからずっと汗が噴き出していた。遥は、拳銃を右手に預けると、左手で額を無意識に拭った。黒く艶々とした前髪が、汗に濡れて、額やこめかみにへばりつく。それが癪に障ったらしい。遥は、眉間に皺を寄せると、獣のような唸り声を発しながら歯軋りをした。
ひとしきり唸ると、ふいに眉間から力を抜いた。まぶたを半分おろし、唇を大きく上下に開いてほっと息を吐き出す。汗が一粒、こめかみから頬をつたい、顎から床へとしたたり落ちた。
と同時に、遥は、銃口を右のこめかみに押し当てた。その横顔にくっきりと、緊張と覚悟の線が浮かび上がる。安全装置はとっくに外してあった。弾も、六発全て装填してある。あとは、指に力をこめれば良い。それで、望みどおりすべてが終わる。
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