弟へ

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 孝彦おじさんは生涯家族を持たないままだったので遺骨を受け取りにいかなくてはならなくなった。孝彦おじさんのいる離島へは、休みをまとめて取る必要があり、2週間後の連休を使って母と遺骨を受け取りに行った。 外出もままならないほど足の弱った順一おじさんは、その帰りに私たちが寄るのを待っていてくれた。  順一おじさんは精一杯のご馳走を座卓に並べていた。順一おじさんと母と私の3人で囲んだ夕食は4人分が用意されていた。順一おじさんは上座に重ねた座布団の上に遺骨を置いて、孝彦おじさんが好きだったウイスキーをコップに注いだ。 「久しぶりにみんな揃って嬉しい」  順一おじさんもウイスキーを飲んだ。母は兄弟の仲でいちばんお酒が強くて、ずっと泣きながら飲んでいた。  高齢の二人があまりにウイスキーや焼酎を飲むので心配になったが、せっかく会えた兄弟の楽しい時間ぐらいいいかと思って何も言わずにいた。 「孝彦は末っ子で甘えんぼだったが可愛かった……」  順一おじさんが遺骨の入った白木の箱を、持っていたコップで突いたので箱が高い座布団から落ちてしまった。私は驚いて箱を戻そうと、酔った身体をどっこいしょと立ち上げて顔を上げると、座布団には40年前に見た若いころの孝彦おじさんが座っていた。  私は声も出せず母の方を向くと、母も順一おじさんも、最初から孝彦おじさんがそこに座っていたかのように、途切れなく話が弾んでいる。孝彦おじさんはずっと笑顔で順一おじさんと何度も乾杯をして子どもの頃のいたずらを自慢していた。母も大笑いしながら孝彦おじさんが小さい頃ムカデに頭を噛まれてできた傷を撫でて懐かしがっている。  子どもの頃の無邪気な思い出よりも、大人になってからの暗くツラい思い出のほうがはるかに多いはずなのに、そんなことは全くなかったかのように3人は思い出話で笑い続けている。あまりに幸せな兄弟の風景が切なすぎて私だけが声を上げて泣いていた。
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