シグナル

2/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 ……──電子音が響く。  ──ハロー、ハロー。私の名前はノア。地球を発ち、411年と95日が経過した。しかし未だ、何も成果は無い。  私はただ、この宇宙空間を当てもなく彷徨っている。宇宙の闇は昏い、それ以上に昏く感じられるのが、恒星達の輝きである。恒星達は、眩く鮮やかに輝き、闇を彩っている。しかし、その美しい光達は、誰の為に向けられているものでもなく、勿論、私にとっても無意味である。それら天体とすれ違う度、何故か私は、私の中の何処か一部分が、昏く淀んで行くような感覚を覚えるのである。 ──ハロー、ハロー。近頃私は、私が、不必要に感傷的になり過ぎているように感じられる。途方もなく長いこの旅が、私をそう変化させたのだろうか。  私は、この際限ない宇宙の闇の中で、「たったひとり」なのではないかと感じる。私の内部には、数億個もの生殖細胞が存在する。しかし、私が目的を達成するまで、それらは決して眠りから覚めることはない。此処には私の他に、動き、語り、思考する者は居ない。 「孤独感」とも言うべきものなのであろうか──この感覚は。如何にも人間じみている。これからも果てしない旅を続けなければならない私にとっては、あまりにも邪魔な感情だ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!