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「だから、もう、許してあげてほしいの」
左隣に座ったあなたの厚ぼったくて艶やかな唇から、囁かれるように発せられた言葉。
僕が両手で包み込んでいるホットコーヒーの温もりほども、あなたの言葉は沁みてこない。腰かけている木製ベンチの冷たさの方が沁みるくらいだ。
河口から吹き上げてくる冷たく乾いた風と、それにのった潮の匂いが僕の沈黙を後押しする。
彼女の言葉をあなたは丁寧に化粧をして、さらにそれを優しく語る。まるで自分の言葉のようだ。
僕に渡されたその言葉は、彼女自身ではとうていできないくらいに上手く塗られ、そしてグラデーションも完璧だった。でも、素っぴんの言葉を知っている僕にとっては無意味なことで。いくらあなたが綺麗に化粧をしてあげたつもりでも、僕にはそれが綺麗にはみえなくて。なんなら彼女の吐いた素っぴんの言葉の方が、咄嗟にさらけ出した都合のいい自己防衛的で緊急故の滑稽さを伴った人間臭さを垣間見れて、可笑しくもあり嬉しくもあり。
あなたの言葉の化粧は、僕にとってはひどく都合を合わせたいびつなものにしか感じられなくて。
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