暮色に染められて、化粧酔い

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 まだ終わりそうにないあなたの唇の動きにも退屈してきたので、僕は視線を外した。  土手下を流れる穏やかな川面は、夕日のオレンジを粉々にちりばめたように色付いている。なんて単純で綺麗だなんて思ってしまう。 「もう、わかったから」  さえぎって、ついでのようにあなたを見やると、大きな瞳が潤んでいた。乾いた風に負けないように、いや、自分が施した綺麗だと思っている化粧に酔っているのか。残念ながら、そんな風に思えてしまう。 「許すもなにもないから。もう、終わったことだからね」  続けた僕の言葉に少し安堵したような吐息をもらして、あなたは一言呟いた。 「ごめんね……」  返す言葉もありはしない。だだ、それに彼女の言葉が頭の中で重なる。ごめんね……。トーンまで同じに響いてきやがる。  僕は顔を右に向けて、すぐそこにある橋に目をやる。この街で一番大きな橋は無機質な灰色の橋脚を、夕日と川面からの反射、そんな色違いのオレンジで染めていた。  二ヶ月前のあのとき、橋の真ん中で暮色に染められながら抱いた彼女の背中。まだ残暑が残るせいか、ワンピース越しにも少し湿っていた。  彼女は必死に僕の右耳に言葉を放り込んできた。それにつられるように、僕は益々強く抱きしめた。彼女の言っていることが理解できずにいた。することができなかった。 「ごめんね……。やっぱりダメだった……」  だけれど最後に出たその言葉に、僕は力をゆるめるしかなかった。  遠ざかる髪の匂い。できた隙間をぬるくて生臭い川っ風が通りすぎていった。                    
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