暮色に染められて、化粧酔い

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 さっきからずっと感じている視線に応じるように、僕はゆっくりと顔を向けた。  風がでてきたせいか、彼女とは違った髪の匂いが鼻先に届く。あまり好きな匂いじゃないな。  あなたは良き先輩だった頃のような雰囲気を醸し出し、三人で過去の良好な関係に戻れたらなんて、湿った顔の割には平気で残酷をまぶして口にする。だったら、せっかく呼び出されたんだし、僕はあなたの素っぴんの言葉を聞きたかった。聞かされるのは、最初からあなた色した彼女の言葉だけだ。 「化粧落としてよ、先輩」  じゃあね、と立ち上がり、背を向けながら右手を振った。だから、あなたが僕の言葉にどんな反応をしたかは分からない。ただ、僕が言葉の化粧に悪酔いしてしまったことは、歩きながら吸う空気がさっきよりも美味しく思えるくらいに確かなことだった。 了  
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