真夜中の迷路

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 季節は秋。ハロウィーン・シーズンのことである。在米時、私はつたない英語力を少しでも上げようと、近所のご婦人が自宅で開いてくれていた英語の個人レッスンに、週一回通っていた。  レッスンと言っても難しいテキストなどは使わずに、雑談をしながら文法を直してもらったり、アメリカの文化や暮らしに関する情報などを教えてもらったりしていた。  レッスンの始めはいつも「週末は何をしていたか?」の話題から入った。男児二人がいる我が家は、とにかく彼らを喜ばせようと、週末ごとにあちこち連れ回していたので、話題には事欠かなかった。  その日も「先週末はどこかに行った?」と尋ねられ、「パンプキンパッチに行ったよ」と嬉々として答えた私。パンプキンパッチとは、ハロウィン用のカボチャが買える即売所のようなもので、農場や公園などで期間限定で開催されるハロウィンお馴染みのイベントのひとつである。  その週末、我々家族は近隣の農場で開催されていたパンプキンパッチに出掛けていた。ヘイライドと呼ばれる、干し草を運ぶ運搬車に乗って畑からカボチャを選んだ後は、トウモロコシを飛ばすコーンキャノンで飛距離を競い合ったり、ペッティング・ズーで動物と触れ合ったり、アップルサイダー(スパイスの効いたリンゴジュース)を飲んだりと、様々なアクティビティを楽しんだ。  そしてその農場の一番の売りが、全米でもトップクラスだと称する巨大な「corn maze(コーンメイズ)」だった。コーンメイズとは、文字通りトウモロコシ畑の中に造られた迷路であるが、何しろそこはアメリカ、規模がとんでもなくデカいのだ。「15分ほどあれば出られるだろう」だなんて気楽に入ったら、実際に脱出するまで一時間を要した。歩けども歩けども、見上げるほど高い緑の壁から出られずに、このまま日が暮れてこの場所に取り残されてしまうんじゃないかと泣きそうになるほどで、スケールが大きいという域を超えて、もはやクレイジーなアトラクションだった。  なんて話を、先生であるミセス・アレンにしたところ、「それって、もしかして○○・ファームのコーンメイズかしら?」と牧場の名前を出してきた。「そうだ」と答える私にミセス・アレンは、 「あそこのメイズでね、ウチの息子がクリーピーな体験をしたのよ」  と、思わせぶりな口調で語りだした。コーンメイズで起きた『creepy=薄気味の悪い』話を ──
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