Sound 1-2

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 ♢ 「天音さん、そんなに落ち込んでどうしたの?」  まるで天界に鳴り響く鐘のように、その声は私の心胆を震わせる。 まるで浄化されるような気分だ。  ややもすれば涙を流してしまいそうな私に、その声は言葉を続けた。 「君の落ち込んでいる顔、僕はあまり見たくないよ」  違う。 違うんだ。 私は落ち込んでいるわけではない。 君の声があんまり幸せを運から、胸の容量を圧迫して苦しいんだけなんだ。 「……ひょっとして僕のせいなのかな」  甘美な響きに、萎れの影が差した。  違う。 それも違う。 私は君に声をかけられると苦しくて仕方がないのだけれど、だからといって君が落ち込む必要は無い。 君はラジオのように、私の耳元で世間話をしてくれれば良いのだ。 私は、この胸の容量を増やすために頑張るから。 「ああ、天音さん」  ふと、その声は私の頭上に向けられたような気がした。  そういえば、私は今どこにいるんだろう。  身体を動かしているつもりなのだけど、どこか緩慢としていてもどかしい。 それに、視界は全体的に靄がかかったように見える。 声の主の姿すらシルエットとなり、上手く顔を窺うことが出来ない。 「そろそろ、行かないと」 「行くって、どこに」 「そんなの、決まっているだろう?」 「──嫌、まだ終わりたくない」  私は本能的に悟ってしまった。  ああ、最悪だ。 そういうことかよ。  すると急速に視界が狭まり始めた。 煉瓦の壁が崩れるように、私の幻想的な世界が終わりに向けて駆け出し、声の主が私の側を離れてしまう──。 「終わりたく、ないのに」  私の声は延々と響き、終いには言葉の形を崩しながら、残響を鼓膜に刻み続けた。
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