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「──で、その男の子の名前は何なの?」
同日正午、教室にて。
私は友人──アオイ(声優好き)に昨日の出来事を話した。 どうしても抑え切れなかったのだ。 王様の耳はロバの耳とはよく言ったものだと思う。
で、返ってきたのが今の言葉だ。
私はパックジュースのストローを咥えながら、「……知らない」と自らの失態を披露していたことに気が付く。
「えぇっ、じゃあどうやって探すのよ」
「そ、それはぁ……」ストローを噛む。 「あ、でも徽章は同じ色だったよ! だから二年生なのは間違いない」
「そんな目を輝かせながら言われてもねぇ。 この学年だけで何人いると思ってる? 一クラス四十人が七クラスもあるんだよ」
「えーっと、それはつまり何人?」
「二百八十人! けどまあ、このクラスじゃないなら二百四十人なのかな。 それでも多いじゃん」
「二百……四十。 いや、先生に訊けば分かるかも!」
「特徴は覚えてるの?」
「あっ」
夢の中で彼の姿がぼやけていたように、私の記憶にいる彼もまた声の印象を残して消えている。 私が持ち合わせる彼を説明するに相応しい言葉は「声が良い」のみで、それだけで先生が特定してくれる確率は限りなく低い。
「わ、私はどうしたら……っ」
「万策尽きた感じが否めないわね。 うーん、でもそんなに天音が心奪われる声って、どんなのだろう。 気になるなぁ」
「ほんと心奪われるよ。 ひょっとしたら、アオイの好きな声優さんを凌駕しちゃうかも」
「ちょっと待って、それはヤバい」
アオイが前のめりになった。 目の色が変わったのは、それまで私の話に興味を示してくれていなかったのだろうか?
私は少しだけ頬を膨らませた。
「ね、どうしたら良いと思うアオイ。 やっぱシラミ潰しに教室を見て回るべきかな。 それとも先生に何としても特定してもらうべきかな」
「う、ううんと……効率の良さだとしたら先生に訊くのがベストじゃない? 職員室行けばさ、各教室の担任くらいいるでしょ」
「そ、そうだよね。 一縷の希望に賭けるしかないけど、それが良いよね」
教室の時計を見上げた。 時間帯的に、今から職員室に行っても満足な回答は得られないだろう。 よって、先生に訊きに回るのは放課後ということになったのである。
演劇部に所属しているアオイとは違い、不本意ながら私は暇なので、何とかして件の生徒を探し当てることを託された。
「任せたからね、天音。 場合によっては演劇部のナレーションを受け持ってもらうことも考えてるんだから!」
「ねぇ、アオイの方がやる気になってない?」
「推しの声優より良いかもなんて言われたら、やる気を起こさないわけにはいかないでしょ」
「その声優さんが泣いちゃうね」
「私は雑食なの」
きっぱり言われ、私は苦笑することしか出来なかった。
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