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能鷹何某くんと面会出来たのは、若山先生に伝言を残してから数日後のことだった。
──その日の放課後、私は若山先生に連れられて三階の特別教室に向かっていた。
『特別』とそれらしい名前は付いているが、言葉の蓋を開けてみれば空き教室を言い換えただけだ。 どうして彼が普段授業を受けているであろう二組の教室を使わないのか疑問を抱いたが、何かしら配慮があったのかもしれない。 例えば、面会中に他の生徒が入って来たら雰囲気が壊れる、みたいな。
と、若山先生は立ち止まり、私も三歩進んで立ち止まった。 いつの間にか特別教室──もとい空き教室に到着していたらしい。 磨りガラス越しに室内の様子を窺うことは出来ないが、夕陽の橙が差し込んでいないことだけは分かった。
カーテンを開ければ良いのにと思う一方、この中に能鷹何某くんがいるという高揚感が私の心臓をキュッと握った。 脳裏にはあのイケボが木霊していて、気を緩めれば荒い呼吸になりそうだった。
「それじゃあ、中に入りましょうか」
「は、はいっ」
途端に緊張もしてきた。
今回はマンツーマンで、しかもあの日以来喋ったことのない男子と話し合うのだ。 緊張しない方がおかしい。
「こうなればもう、やるっきゃない」
小声で呟き、開けられた教室の中へ足を踏み入れた。
普段使用している教室に比べ、ここは全体的な座席数が少ない。 今回のためだけなのかもしくはいつもこうなのか、教室の中央には二つの座席が向かい合うようにして並んでいた。
そして私から見て上座位置に、能鷹何某くんが腰掛けていたのであった。
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