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「能鷹くんの声は放送部としては光みたいなもので、今の放送部に貴方が必要なの。 ……どうかな、放送部として自分の声を大勢に届けてみたいと思わない?」
机に組んだ両手を乗せ、アプローチをかける。 能鷹くんは姿勢を変えず無言のまま、葛藤しているように見えた。
それもそうだ、ほぼ初対面の相手に突然入部を求められたのだから。
本当なら即座に答えを欲しかったけれど、私たちの間に漂う沈黙が圧力みたいだった。 これでは本人の意志とは違う答えを引き出してしまうかもしれない。
それに、ここに来る道中で若山先生から「なるべく手短に」とお願いされている。 理由としては、あんまり空き教室を利用したくないらしい。 鍵の返戻が面倒なのだろう。
「まぁ、気が向いたら来てみてよ。 私はいつでも待ってるからさ。 あ、因みに放送部の場所って知ってる?」
「……二階、ですよね」
「そうそう! 何なら若山先生に伝えてもらえれば、私は飛んで行くから!」
「……分かり、ました」
能鷹くんが顎を引いたところで、私はここが潮時だろうと席を立った。 面会の手配をしてくれた先生に会釈して教室を出た私は、廊下でどっと息を吐いた。
彼の声の過剰摂取でどうにかなりそうだったのだ。
とにかく、後は能鷹くんの意志に任せるのみだ。
放送部の廃部を伝えなかったのもそのため。 私が彼を誘うのはあくまでも声に惹かれたからであり、廃部という追加要素を加えてしまうと情に訴えることになる。 それは違う気がした。
よって、放送部の廃部や来る最後の日まで華を咲かせてほしいという私欲も、彼が入部してくれた場合に説明するので良いだろう。
彼が答えを出すまで、私はいつものように放送室の主として彼を迎え入れる準備をしておくのだ。 無下になるかもしれないという邪推は、今は要らない。
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