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アマネという少女は、僕に放送部に入らないかと誘って来た。 僕にとって『部活』というのは中学生になってから生まれた新語なわけだが、新語は新語のまま時間だけが過ぎて埃を被ってしまっている。
これまで、何か部活に所属した経験は無かった。
中学は強制参加だったから名前だけ存在している幽霊部員として美術部にはいたが、高校は入部が絶対ではない。 僕はそのルールに則り、今日まで無所属を貫いていた。
……だって、僕は何かに所属することを苦手としているから。 高校にだって毎日来るわけでもないし。 というか、半ば辞めるつもりでいるから入部したところで意味が無いのだ。
「能鷹くん、どうしようか」
まだ部屋にいた若山先生が、親のような口調で問うてくる。 「どうしようか」というのは無論、彼女の願いを聞き入れるか否かを意味しているのだ。
「……さぁ」
「今の所、答えは出ていない?」
「……まぁ。 そもそも、あまり時間が無い状況って何だったんですか」
先生から聞かされた事情を、彼女は口にしなかった。 僕を誘ったのは『声』が理由だというのは分かったが、それが『時間の無い状況』とどう絡んでくるのかが不明だ。 やはりあの人は何かしらの病を抱えていて、しかし口にするのは憚れると踏んだのだろうか?
「多分それは、貴方の意志を尊重したからじゃないかしら」
「どういう意味ですか」
訊くと、先生は含みのある笑顔を見せた。
「ううん。 何でもない。 とにかく、なるべく早く答えを出してあげてね。 じゃ、私は職員室で終わらせないといけない作業があるから」
先生はその言葉を残し、教室を後にした。
僕は浮き袋も無しに海に放り投げられた気分になり、深く溜息を吐いた。
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