Sound 1-4

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 ♢  能鷹くんと初めてまともに会話してから、数日が経過していた。 私は毎日、他の部活が終わる時間頃まで放送室に居座っているのだけれも、未だに彼が来る気配は感じない。 あの面会で心に響かなかったのか、あるいは体調不良で休んでいるだけなのか──。  放課後、私は放送室にこもりながらコードの片付けを行なっていた。  こいつらは式典でよく使うが、適当に放置していると勝手にお互いが絡まり合うのだ。 特に何もない時間ならこの絡まりを解くのは多少苛つくけど、今みたいに考え事をしている間なら驚くほどストレスを感じない。  ただ、同じ姿勢で解き続けるのはさすがにキツくなってくる。 私は一度背筋を伸ばし、ついでだからと放送室の窓を開けた。 どうも防音施工の部屋は無味乾燥すぎて、無駄な気力を使っているような気がしたからだ。  すると冷たい秋風と共に、様々な物音が流れ込んで来た。  野球部の、ボールを打ち返す金属バットの音。 校舎周りを走る陸上部の掛け声。 吹奏楽部の軽やかな音色──。  ……羨ましいな。  皆んなが、部活動を通して青春を送っている。 恐らく、これが最後の青春になる人もいることだろう。 そういう人にとってはただの一日ですら貴重だ。 将来後悔しないように、今を精一杯に楽しんでいるんだ。  ──それは、私も同じなのに。  開けた窓から離れ、放送室の床に敷かれたグレーのカーペットに仰向けになった。 薄汚れた天井が視界に映り込む。 「……何やってんだろうなぁ、私」  右の二の腕で目元を覆い、溜息を吐いた。  私も高校卒業と共に青春が終わる人間だ。 刻一刻と終わりは近付いているのに、私は放送室にこもったまま何もせずにいる。 溝川に、お金を落とし続けているようなもんだ。  しかし私が放送部に連日通わなくなったら、放送部の存在意義を私自身が無いと認めていることになる。 私がこうして放送室に通うのは、少しでも放送部の存在意義を保たせるためなのだ。 それでも他の部活を羨ましいと思うのだから、いよいよ救いようが無い。  ほんと、私って人間は──。  そう、青春の過ごし方を嘆いた時だった。
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