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「え?」
私はがばりと上体を起こし、音のした方──放送室の鉄扉を見やった。
……今のは、気のせいだったのだろうか。
ゆっくり立ち上がり、一先ず窓を閉めた。 すると室内はピンと空気が張ったような静寂に包まれ、息を吹き返したように壁に掛かった時計の音だけが聞こえて来る。
更に数秒が経った頃だろうか。 再び、等間隔で扉がノックされたのだ。
「……もしかして、能鷹くん?」
この小さな呟きが部屋の外に聞こえるはずがない。 が、先生ならもう少し他のアクションがあっても良いはず。 よって、あの扉の向こうにいるのが能鷹くんである可能性は限りなく高い。
私は恐る恐る扉に歩み寄り、そっと引き手を掴んだ。 冷んやりした鉄の感触が手の平いっぱいに伝わる。 そしてガチリと引き手を下げ、重たい扉を内側にゆっくりと開いた。
すると。
「──あ、どうも」
もう、顔を見るまでもなかった。 私はその声で、思わず飛び跳ねてしまいそうだった。
能鷹くんが、放送室に顔を出してくれたのである。
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