Sound 1-4

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 ♦︎  昔から、自分で物事の判断を決めることが苦手だった。 周りがイエスなら僕もイエスだし、ノーならノーと述べる人間だった。  どうせ僕が口を出したところで大衆の意見を覆せるわけもなく、そもそも能動的に人と話すのを苦手としているから無理なのだ。 高校だって、何となく選んだも同然だった。  ──まぁ、気が向いたら来てみてよ。 私はいつでも待ってるからさ。  だから、悩んだ。  数学で例えるなら、基礎を習った次の瞬間に応用問題を解かされる気分だ。 僕にはどうすることが正しいのか分からなかった。 周りに合わせ続けたツケがここで回って来たのだ。  仮にも『行かない』を選べば、僕の生活に変化が起きることはない。 話は無かったことになり、あの人とは平行線のままなのだ。 僕としてはこれが正解なんだろうけど、『行く』選択にさせる理由も有るのだから余計に悩むのだ。  果たして、アマネさんの抱える『あまり時間の無い状況』とは何なのか? ということ。  何度も言うように、彼女が余命僅かな大病を患っているなら、少しでも携わってやりたいとは思う。 仮にも彼女が亡くなった時、「願いを聞いてやれば良かった」と僕の胸裏にしこりが出来そうだから。 いや、僕じゃなくとも先生が残念そうにすれば居た堪れなくなりそうだから。  ただ、これはあくまでも僕の推測だ。 もしかすると、アマネさんは大学進学を決めていて、そのための勉強時間を確保するために泣く泣く活動を制限せざるを得なくなった、とも考えられる。 あまり時間が残されていない、とは多様な考え方が出来るのだ。
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