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悩みに悩んだ数日間、この葛藤に対する僕が導き出した答えは、取り敢えず顔だけ出してみようということだった。
入部するか否かはその後で考えるのでも遅くはないだろう。 とにかくもう少し詳細な話が必要なのだ。
──というわけで、僕は決心が鈍らないうちに行動を決行することにしたのである。
アマネさんとの面会から数日が経った放課後、僕は高校から大半の生徒が出払うのを待ってから、放送室へ向かった。 場所は何となく覚えていた。
夕陽の差し込むリノリウム廊下を、クラスメイトとすれ違わぬよう慎重に歩みを進め、遂に僕は放送室の前までやって来ることに成功した。
防音施工のためか入り口には重圧感のある鉄扉が嵌め込まれている。 その扉には『放送部部員募集!』と書かれた勧誘紙が貼られていた。
どうやら時期を間違えているようだ。 単に剥がすのが面倒なだけなんだろう。
僕は扉をノックする前に、一度深呼吸を行った。
「よし」
決意を固め、鉄扉を三回ノックする。
これが、初めて自分で選択した道を歩む第一歩だ。
「……うん?」
ノックして数秒待ったが、向こうから返事が無かった。 鉄扉に耳を近付けてみるが、やはり何も聞こえて来ない。 扉の冷たさが頬に伝わる。
……ひょっとして、ノックの音が小さかったのだろうか?
やや出鼻を挫かれた気分で、改めてノックしてみる。
これで反応が無ければ帰ろうと思った矢先、ガチリと引き手が下がった。 ゆっくりと扉が開けられていく。
この向こう側にはアマネさんがいるのだろう。 途端に、息を潜めていた緊張が僕の胸裏を満たし始めた。 耳の裏で心臓がなっているようだった。
やがて開けられた扉の先、思った通りアマネさんが立っていた。 どこか呆然としているのは気のせいだろうか。
「──あ、どうも」
ともかく、僕は姿を現したアマネさんにそう呟いたのだった。
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