Sound 2-1

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 ♢  能鷹くんが放送室に来てくれた。  それは私にとって、闇の中に一条の光が差し込むような出来事だった。   「来て、くれたんだね」  嬉しすぎたあまり、私の声が震える。  正直、能鷹くんは来てくれないんだと思っていた。 あの日の面会は仕方なく付き合ってあげただけで、彼に入部する気などさらさら無かったのだ、と。 だから私は、忠犬ハチ公のように来ぬ人を待ち続ける羽目になる恐れがあった。  それが今、能鷹くんが放送室に訪れてくれたことで、そんな私の邪推は一蹴されたのだ。 心の中にいたハチ公も尻尾を振って喜んでいる。 「これで私は報われるよ」 「……はぁ、それは」 「大仰だと思ったかな。 でも本当なの。 能鷹くんが来てくれたから私は、ううん、この放送部事態が良い終わりを迎えられるの」 「……終わりを?」 「そう。 ……って、言ってなかったよね」  能鷹くんは何がなんだか分からないような顔をしていた。  それも当たり前だ。 私はまだ能鷹くんに、放送部の現状を一ミリたりとも話していないのだから。 「と、取り敢えず中で話そうか。 ここじゃ雰囲気に欠けるし」  「どうぞどうぞ」と能鷹くんを放送室内に招き入れる。 彼は「お邪魔します」と初めて友達の家に上がるように、足を踏み入れた。  我が校の放送室はアナウンスブースとミーティング室に別れており、私は彼をミーティング室に通した。 そこなら机も椅子もあるから、話し合うには適している。 彼が来ると分かっていたならもう少し綺麗にしていただろう。  アナウンスブースに置かれた段ボール(コード類を収めてある)を見ながら、私は自身の不甲斐なさを呪った。 「あ、好きなところに座ってくれて良いよ」  ミーティング室には、四本足の丸椅子が無造作に置かれている。 また、部屋の中央にはやや年季の入った長方形の机が置かれており、昔はこの机を囲んで原稿の作成が行われていたのだ。 放送部が寂しく感じるのは、この机の存在も一役買っている。
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