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──閑話休題。
能鷹くんは入り口から見て下座位置の椅子に腰を下ろし、私はその正面に腰を下ろした。 側から見た光景として先日の面会と何ら変わりはないが、今回は若山先生が側にいない。 だから、完全な二人きりだ。
私は乾いた口腔内を舐めて、話を始めた。
「さっきの話、能鷹くんのお陰で放送部が良い終わりを迎えられるってことなんだけどね、実はこの放送部は今年度を以て廃部になるの」
「……それは、確定されたことなの」
「まぁ、先生は出来る限りのことはするって言ってくれているんだけど、九割九分覆らないだろうね。 でね、次年度からは生徒会が放送の仕事を担うことになってるの」つい言葉尻が感情的になってしまう。 「私は必然的な成り行きで部長になったわけだけど、無論廃部を阻止できるほどの力は無いの。 だからせめて、放送部の存在意義が最後まで消えないように、する事がなくても毎日放送室に足を運んでいるんだ」
「……それって、あんまり悲しいことじゃ……」
能鷹くんは視線を俯かせたまま呟く。
「もちろん悲しいよ。 皆んな部活動で青春を送っているのに、私だけ青春を捨てながら何してるんだろうって思ってた。 だけど、それももう終わるんだ」
「……え」
能鷹くんのもたげた視線が私の視線と混ざり合った。 私は笑顔を作り、努めて彼がここに来てくれたことの有難さが伝わるように言った。
「君だよ、能鷹くん」
「……僕?」
「そうさ。 君がここに来てくれたから、全てが報われるかもしれないんだ。 我が放送部は、君のような逸材を探し求めていたんだよ」
「僕が逸材なんて……そんな」
「私は嘘を吐いていない。 本当だよ。 きっと能鷹くんは、自分の声が世の女性を魅了させることに気付いていないんだ。 これからは自信を持って良い。 沢山その声を振りまいて欲しい」
主に私が幸福を得るために。
能鷹くんは私の褒めちぎりに対し、頰を掻いた。 照れているんだろうか。 なんだか、その仕草までも愛おしく感じ始めてくる。
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