Sound 2-1

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 ♦︎  ──若山先生の言った『あまり時間の無い状況』とは、放送部が廃部を控えている、ということであった。  それだけなら、僕は迷わず入部を断っただろう。 放課後に人目を気にしながら放送室に行くなんて重荷だ。 だったら平々凡々としたいつも通りを選ぶ。  ……そのはずだったのに。   ──君がここに来てくれたから、全てが報われるかもしれないんだ。 我が放送部は、君のような逸材を探し求めていたんだよ。   ──きっと能鷹くんは、自分の声が世の女性を魅了させることに気付いていないんだ。 これからは自信を持って良い。 沢山その声を振りまいて欲しい。  あんなに褒められたのは人生で初めてと言っても過言ではない。 先日の面会でも褒められはしたけれど、あれはただ口にしただけのように聞こえた。  だから今回、改めて前回を凌駕して褒められたことに僕は驚いたのだ。 思い上がりかもしれないけれど、ようやく僕にも個性が生まれたような気がした。  僕はずっと憧れていたんだ。 誰にも劣らない個性を持つ人間を。  故に、僕は自分の個性であるらしい声を発揮したいと思った。  それが叶うの場所は放送室に限られているのに、その主でもある放送部が廃部すると聞かされた。 あまつさえ生徒会の傘下になれば活動に制限が課せられるとも聞かされた。  ──一縷の希望が、風前の灯火となっている。  そうすると僕の口から、本音が溢れていた。
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