15人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
「……僕は、嫌だよ」
そう。 嫌だった。
折角この個性を活かすことが出来るかもしれないのに制限を課せられるなんて、個性を半殺しにするも同然じゃないか。
「……僕は、協力したい」
自分でも驚くほど、声に決意が込められていた。
実際、アマネさんの表情にも驚きが窺えた。
僕は一度唾を飲み込む。
これにより、たった数日で僕は二回も自身で選択したことになる。
放送室に『行き』、そして──。
「……入部、するよ。 僕は、僕の個性を、殺したくない」
放送部に、『入部』することを選んだのだ。
「それは、本当なんだよね」
アマネさんが僕に問う。 彼女は顔を俯かせており、前髪が表情を隠してしまっている。 彼女が今どのような感情を滲ませているのか分からないまま、僕は「もちろん」と答えた。
するとどうだろう。
アマネさんは椅子を倒す勢いで立ち上がると、僕の元へ歩み寄って来るではないか。 彼女の唐突な行動に遅れを取った僕は、まるで椅子に縛り付けられたように動けなくなった。
「……な、何か?」
たどたどしく訊ねると、アマネさんは無言で手を差し伸べた。 見上げることで窺うことの出来た彼女の表情は、一先ず負の感情ではない。 当たり前だろう、話の流れで負になるのはおかしいから。
僕はその手のひらを呆然と眺めながら、彼女が何を求めているのかを考えた。 答えはすぐに出た。
僕が入部を承諾したことで互いの利害は一致したわけであり、なるほどこれはテレビ等で見かけるアレをアマネさんは行いたいのだろう。
僕は、アマネさんの右手をおずおずといった形で握った。 これで「違う」と手を跳ね除けられたら僕は呆気に取られたが、
「これからも、よろしくね。 能鷹くん!」
彼女が僕の手を握り返したから、杞憂に終わった。
「……よろしく」
こうして、僕の放送部としての活動が始まるのであった。
最初のコメントを投稿しよう!