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「──それで、例の男子とはどうなったの?」
能鷹くんが入部を決めてくれた翌日は昼休みのこと。アオイが放ったその質問は、まるでタイミングを見計らったようだった。
私は自販機で買ったパックジュースのストローを口の端に咥えたまま答える。
「昨日、入部してくれたよ」
「マジでっ!?」
「しっ! アオイ、声が大きいよっ」
慌てて周りを見渡すも、どうやら昼休みの喧騒がアオイの声を掻き消してくれたらしい。 きっと授業合間の休憩ならクラスメイトの視線を集めていた。
「あ、ああ、ごめんごめん。 つい」アオイは申し訳なさそうに苦笑し、「その男子、名前はなんて言うの?」
やっぱり、その質問が来ると思った。
私は飲み干したパックを潰しながら、事前に用意していた答えを返した。
「それがねぇ、秘密なんですよ」少し悪い笑みになっていたかもしれない。
「……どういうこと?」
「これは彼との約束でさ」
アオイに事情を話す前に、教室の時計を見上げた。
うん、まだもう少しだけ時間は残っている。 アオイに話してあげることくらいは出来そうだ。
私は潰したパックジュースをゴミ箱に放り投げ、昨日の彼との会話を改めて思い返した。
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