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十月下旬の職員室は、コーヒーの香りで満たされていた。
とある研究結果によると、コーヒー豆(特に深煎り)の香りにはリラックス効果があるらしい。 ネットで偶然にもこの記事を閲覧した私は、そんな香りを独占する職員室はずるいと思ったし、勉学に勤しんで疲れ果てる学生諸君にも香りを届るべきだとも思っていた。
が、今日を以てその思いは覆ることだろう。
なぜなら、職員室に来て十分が過ぎた頃、私は気付いてしまったのだから。
コーヒーの香りというのは、ふとした瞬間に嗅ぐから良いのだ、ということに。
現在、私の鼻周りに漂うコーヒーの香りは、まるでぐにゃぐにゃと醜悪なモンスターが誕生するのを目の当たりにするような、そんな気持ち悪さを纏っていた。
だから、リラックスなんて出来たもんじゃあない。
本当は今すぐにでもここから立ち去りたいのだが、私の用事は終わっていないのだ。
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