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「──ていうわけなのよ。 だから、誰にも教えられないの」
能鷹くんの名前を上手く伏せながら、私はアオイへの説明を締め括った。 アオイは「そっかぁ」と唇を尖らせると、次いで勢い良く私の両方を鷲掴んだ。 突然のことに目を白黒させる私に、アオイは世界の終わりを嘆くように言った。
「ち、ちょっと待って! それじゃ、あたしのお願いはどうなるの?」
「お、お願い?」
「そうだよ! ほら、ゆくゆくは演劇部のナレーションを頼みたいっていうあれ!」
「あ、あぁ、そっか。 そんなこともあったね」
「そんなことって、もう〜」
ぐわんぐわんと肩を揺らされる。 やめろ、脳震盪で死ぬ。
「ごめんってば。 取り敢えず放送部の活動に目処がついたら、私から彼に頼んでみるからさ。 一先ず肩揺らすのだけはやめてくれる?」
「本当に? 小指落とす覚悟があって言ってる?」
「え、この歳でカタギじゃなくなるの嫌だな。 ……じゃなくて、とにかく今は彼の要望を受け入れてあげて欲しいの」
「う、うう……分かった。 仕方ない。 その日が来るまでこれまで通りでいくよ」
ようやく揺れが収まった。 アオイは状況を飲み込んで立ち回ることが得意なのだ。 私は彼女のそういうところが好きである。 もちろん、友達として。
「それじゃあ放送室に用があるから。 行くね」
「ん、分かった」
午後の授業でも顔を合わせるというのに私たちは互いに手を振り、私は教室を後にした。 教室を出る際にアオイを一瞥したが、彼女はふわふわと欠伸をしていた。
多分、私に向けたあのリアクションは少しオーバーだったんだろう。
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