Sound 2-2

12/12

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
『──あ、ひょっとして……』  すると早速、能鷹くんが反応を示した。 発言の内容や声色から間違いなく能鷹くんであることが分かる。  私は少し音量を上げて、彼の声を目一杯取り込むことにした。  アマネ〉 そうだよ! 今日が初配信の記念日だね。 『……まぁ、たしかに。 えと、何を話せば良いんだろう』  アマネ〉 今の気持ちはどう? 緊張してる? 『……そう、だね。 うん、緊張はしてる』  アマネ〉 実は私もね、ドキドキしてる。 『ドキドキって……』  アマネ〉 本当だよ。 友達が配信してるのって不思議な感じでさ!  と、メッセージを打っている私の表情は、側からみれば物凄く気持ち悪い笑みを浮かべていると思う。 能鷹くんの声を聞いた瞬間から、口角が上がったまま下がってくれない。  イヤホンを使用しているから彼の声が脳を直撃していて、脳細胞の一つ一つが「ヤバい」とか「蕩ける」とか果ては「幸福で悶死しそう」とか騒いでいるのだ。 これはもう、怪しい薬の一種類みたいな物だ。  私はすっかり、能鷹くんの声無しでな生きて行けない人間になっている。 『……取り敢えず、今日は三十分だけかな』  アマネ〉 了解! 三十分だけでも私は嬉しいよ。  アマネ〉 そういえばさっきさ、能鷹くんの声に似てる人が弾き語りしてたの。 『……弾き語り? なんて人?』  アマネ〉ユウ、って人! 是非とも聴いてみてほしいな。 『……うん、分かった。 聴いてみるよ──』  能鷹くんの初回配信。  私たちは、当たり障りのない会話を広げた。  会話が苦手だと言っていた能鷹くんは、時間が経つにつれて話し方に慣れが窺えた。 気がする。  そうして三十分はあっという間に過ぎ、この日の放送は無事に終わったのであった。 結果として枠に訪れたのは私一人だけだった。  正直、彼の枠は私一人だけで独占したいのだけれど、この想いは胸の内にしまっておく。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加