15人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
『──あ、ひょっとして……』
すると早速、能鷹くんが反応を示した。 発言の内容や声色から間違いなく能鷹くんであることが分かる。
私は少し音量を上げて、彼の声を目一杯取り込むことにした。
アマネ〉 そうだよ! 今日が初配信の記念日だね。
『……まぁ、たしかに。 えと、何を話せば良いんだろう』
アマネ〉 今の気持ちはどう? 緊張してる?
『……そう、だね。 うん、緊張はしてる』
アマネ〉 実は私もね、ドキドキしてる。
『ドキドキって……』
アマネ〉 本当だよ。 友達が配信してるのって不思議な感じでさ!
と、メッセージを打っている私の表情は、側からみれば物凄く気持ち悪い笑みを浮かべていると思う。 能鷹くんの声を聞いた瞬間から、口角が上がったまま下がってくれない。
イヤホンを使用しているから彼の声が脳を直撃していて、脳細胞の一つ一つが「ヤバい」とか「蕩ける」とか果ては「幸福で悶死しそう」とか騒いでいるのだ。 これはもう、怪しい薬の一種類みたいな物だ。
私はすっかり、能鷹くんの声無しでな生きて行けない人間になっている。
『……取り敢えず、今日は三十分だけかな』
アマネ〉 了解! 三十分だけでも私は嬉しいよ。
アマネ〉 そういえばさっきさ、能鷹くんの声に似てる人が弾き語りしてたの。
『……弾き語り? なんて人?』
アマネ〉ユウ、って人! 是非とも聴いてみてほしいな。
『……うん、分かった。 聴いてみるよ──』
能鷹くんの初回配信。
私たちは、当たり障りのない会話を広げた。
会話が苦手だと言っていた能鷹くんは、時間が経つにつれて話し方に慣れが窺えた。 気がする。
そうして三十分はあっという間に過ぎ、この日の放送は無事に終わったのであった。 結果として枠に訪れたのは私一人だけだった。
正直、彼の枠は私一人だけで独占したいのだけれど、この想いは胸の内にしまっておく。
最初のコメントを投稿しよう!