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「──聞こえてるか、天音」
「ぅ、はいっ!」
突然名前を呼ばれて、思わず威勢の良い返事をしてしまう。 周りにいた先生達の視線が、一瞬だけ私に集まった。 気がした。
私の用事とは、お説教ではない。 普段から清く正しく高校生活を送っている私にとって、先生の癇癪を引き起こすのは無縁の行動なのだから。
それでは一体、何をしているのかというと──。
「そういうわけで、来年度からの活動も宜しく頼んだぞ」
「……はい」
「そう落ち込むな。 天音が悪いわけじゃないんだ。 お前は放送部の部長としていつも頑張ってたんだから」
「そう、かもしれないですけど……」
私は手元の紙に視線を落とす。 そこには今後の放送部の活動方針が記載されていて、今日はこれについてを顧問の鶴一先生と話し合っていたのだ。 お陰で、すっかり長居することになってしまった。 コーヒーの香りが姿を変えてしまう程に。
「あの、先生」私は紙から視線を上げて、先生のアーモンド目を見つめて言った。 「本当に、このままなんですか。 本当に、放送部は無くなっちゃうんですか」
「まぁ……」
先生は申し訳なさそうに眉根を下げた。
それだけでもう、答えは解ってしまった。
もっとも、悪足掻きだって知っていたけれど。
「九割九分、そうなるだろう。 俺も廃部を避けるために色々話はしてるんだけどな……」
「……ですよね。 愚問でした」
「一応、最後までやってみるさ。 天音の、放送部としての努力を無駄にはしたくないからな」
話がそうやってまとまると、先生のデスクに設置された電話が頃合いを図ったように音を鳴らした。 結局話の展望に明るい兆しを窺うことが出来ないまま、話し合いは終わったのだった。
私は小さく「ありがとうございます」と呟いて、職員室を後にした。
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