Sound 2-3

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 ♢ 「──良かったよ! この間の配信!」  週末を終えた月曜日の昼休み、私は放送室で能鷹くんのことを褒め称えていた。 身振り手振りを交えながら褒めるのは、言ってしまえば私の語彙力欠落を補うためだ。 「……あ、ありがとう」  ミーティング室の椅子に腰掛ける能鷹くんは、頬を掻いて俯いた。 彼はそのままの姿勢で、「……そういえば」と視線だけもたげる。 「……聴いたよ。 例の弾き語り」 「本当っ?!」私は机を叩いて立ち上がり、上体を彼に傾げる。 「カッコ良い声だったでしょ!」 「……カッコ良い声……ではあったけど、僕に似てるの?」 「似てる似てる! なんなら録音してあげよっか」 「……恥ずかしいよ」 「ごめんごめん、冗談。 でも、似てるのは本当だからね」  椅子に座り直し、私は持ち込んだペットボトルのお茶を飲んだ。 話に一区切りを付けるためだ。 「さてと」私はキャップの蓋を閉めながら「今週は能鷹くんに初放送をしてもらいたいわけだけど、その為に練習しとかないとね」 「……練習、か」 「そ。 マイクに声を乗せるからには、基礎的なことは完璧にしておかないとだからね」  能鷹くんの声は素晴らしいが、マイクに乗せるにはもう少し声量が欲しい。  私は腹式呼吸に始まり発声練習や滑舌についても説明した。 どれもこれも、能鷹くんの声を最大限に活かすためには必要不可欠なのである。
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