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初放送となる水曜日に向け、僕は自分なりに練習を重ねた。 始めの頃に比べ、腹式呼吸や発声に関しては多少なりとも自信が付いている。 恐らくはそのお陰なんだろうけど、頭の中で描く理想図が煌びやかな物へと変貌していくようだった。
そうであるからこそ、僕の初放送は成功するものだとばかり思っていたのだが。
「ついにこの日が来たね」
水曜日。 アナウンスブースのマイク前の椅子に、僕は腰を下ろしていた。 今日はいつもと違って、妙な静けさがブースを満たしている。
「……上手くいくかな」
「大丈夫、自分に自信を持って」
隣に座るアマネさんから送られたのは当たり障りのないエールではあるけれど、緊張感は多少和らいだような気がした。 僕は一度深呼吸して、指をマイクスイッチの上に載せる。 若干震えているのは武者震いだろう。
「……それじゃあ」
僕が頷くと、アマネさんはアナウンス音を鳴らすスイッチを押した。 今頃校内では、「これから放送が始まるのだな」という意識が働いているはずだ。
僕は乾いていた口腔内を舐めて、そして──。
「…………………」
口を開けている。 だからこそ冷たい空気が喉の奥に流れ込む。
僕は言葉を発したければならない。 これまで練習してきたように、昼の放送を行うと旨を伝えなければならない。 だのに、言葉が喉の声帯に引っ掛かったまま出てくる気配が無かった。
隣から不安な眼差しが刺さってきた(ような気がする)。 それが尚更に僕の言葉を喉の奥へ奥へと押し込んでしまった。 出したいのに出ない。 言葉が行き場を失っている。
そうして無言の間が限界にまで達した時、すっと横から手が伸びた。
「これから、お昼の放送を始めます」
アマネさんが臨機応変を効かせて放送を始めたのであった。
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