Sound 2-3

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 ♢ 「──ね、今日の放送って事故ったの?」  帰りのホームルームが終わり、クラスメイトが三々五々散って行く中、肩に鞄を担いだアオイがふとそんな質問を私にした。  私はちくりと胸の痛みを覚えながら、「そうなの」と答えておく。 「機材の調子が悪くてさ、声が数秒乗らなかったんだ」 「へぇ。 珍しいこともあるもんだ」 「まるで放送部の廃部に拍車をかけるみたいな不具合だよね。 ほんと勘弁して欲しいよ」  態とらしく肩を竦めておき、私も肩に鞄を担ぐ。  それからアオイと適当な会話を交わして別れ、放送室ではなく食堂を目指した。 別にお腹が空いたわけではない。 エネルギーの配分はちゃんとしている(つもり)だから、次にお腹が空くのは夕飯の時間だ。  よって私の目的は食堂の中にあるのではない。 そもそもこの時間帯に食堂は営業していないのだ。  校舎の内と外を繋ぐアルミ扉を開け、肌寒い風の吹く簡素な渡り廊下を、食堂に向けて歩みを進める。 そして、食堂の外に設けられた自販機の前で足を止めた。 「能鷹くん、どれが好きなんだろう」  私は能鷹くんに、飲み物を奢ろうと決めたのだ。  これは初配信を労うためであり、罪滅ぼしのためでもある。 無言の間を作らせてしまったのは私の落ち度なのだ。 「ま、コンポタが無難か」  硬貨を投入し、コンポタのボタンを押す。 続けて、ココアのボタンも押した。 これは私の分である。
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