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直で触るには相応しくない熱さの缶をお手玉のように動かしながら、放送室の鍵を取りに職員室へ向かう。 その道中でのことだった。
「あら、天音さん」
三階から下りてきた若山先生に声を掛けられた。
私はお手玉を続けながら「どうも」と会釈する。
「これから放送室に向かうの?」
「まあ、そんなところです。 二組のホームルームは今終わったんですか?」
「たった今終わったところだよ」先生は行ったり来たりするココアとコンポタを見ながら、「ひょってして能鷹くんの分?」
「そうです。 彼、本当は今日放送する予定だったんですよ。 でも私のせいで失敗になっちゃって……。 これは色んな意味を込めたコンポタなんです」
言うと、先生はどこか微笑むように「良かった」と眼鏡の奥の相貌を細めて呟いた。 よもや能鷹くんの失敗を喜んだわけじゃあるまいなと訝る私に、先生はこう続けた。
「能鷹くん、少しずつ変わってくれてるのね」
「変わってる……?」
「ううん、こっちの話。 天音さん、これからも彼のことよろしくね」
「……? 分かりました」
私は首を傾げて了解した。 どこかはぐらかされたような気がするけど、私の気のせいかもしれない。
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