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若山先生と会話した後は職員室に鍵を取りに行って、放送室へ向かった。
私はミーティング室の椅子に腰を下ろし、そして幾分か時間が過ぎたところで能鷹くんが放送室にひっそりやって来る。
私は手刀しながら挨拶し、
「今日はお疲れ様。 ほい、これは初放送頑張ったで賞のコーンポタージュ」
能鷹くんにコーンポタージュ缶を渡した。 彼は両手で缶を受け取ると、伏し目がちに「ありがとう」と呟いた。 声色や表情を窺うに、どうやらお昼のことを引きずっているらしい。
「そんな気負いすることじゃないよ」
「……うん、まぁ」
私は能鷹くんの前に腰掛け、ココア缶のプルタブを上げた。 が、未だ熱くて直ぐに飲めそうにない。 湯気として昇り立つ香りを楽しむとしよう。 同じく、能鷹くんもプルタブを起こしたまま飲もうとはしなかった。 猫舌なのだろうかと思っていると、
「……ごめん。 その、迷惑かけたよね」
突然謝られてしまったのだ。
「迷惑だなんて思ってないよ。 というか、迷惑だって思ったらコンポタなんて買わない」
グイッとココアを飲む。 案の定舌を火傷した。 ヒリヒリする舌を動かして、「私の方こそ」と自戒を含めて続けた。
本来なら私から言わなければならなかったことなのだ。
「能鷹くんに急がせたのがいけないの。 ごめんね」
放送室に気不味い沈黙が降りる。 ココアの香りが異様に甘く感じられる。 職員室のコーヒーの香りを思い出した。
私はあちこちに視線を走らせて、必死に言葉を探した。 こんな時、何て返すのが一番良いのだろう。
築かれる沈黙の壁を破るため考えに考えた結果、私の口から出ていたのは、地雷的な内容だった。
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