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──自分の声をマイクに乗せる。
一回目の放送では超えられなかった壁を、僕は今日で乗り越えたのだ。
乗り越えた、といっても完璧に淀みなく放送出来たわけではない。 原稿に書かれていない所で読点を付けるし、あまつさえまるで一本の棒で貫かれたみたいに棒読みだった。 ひょっとしたら「ロボットが放送してるんじゃないか?」と思った人もいるんじゃないだろうか。
まだ二回目(そもそも一回目は失敗している)で仕方のないことかもしれないが、やはり悔しいという感情が胸裏に宿っている。 僕が僕の声を生かして世界を変えるには、まだまだ鍛錬が必要なのだ。
手元にある原稿に視線を落とす。
今日はこの最後に書かれた一文を読み上げれば、僕の初放送は終わりである。 たった数文字の文章だけれど、僕はこの文に、今できる最大の力を発揮せねばなるまい。
微かに聞こえてくる流行の曲(らしい)を耳にしながら、僕は口を動かす。 口の動きだけなら練習通り通りに出来る。 これを本番でも活用しなければ全て無駄なのだ。
僕はもう、無個性な自分に戻りたくはない。
だからこそ、一刻も早く“完璧な放送”に形を作り上げなくてはならないのだ。
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