Sound 1-1

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 *  私が放送部に加入したのには、中学時代に聞いていたラジオの影響がある。 毎夜学校で疲れた体を、巧みな話術で面白おかしく解してくれるパーソナリティに、私は憧れを抱いていたのだ。 仮にラジオパーソナリティになれずとも、私はこの声を使って誰かの心を動かしてみたかった。  そうして思い浮かんだのが、放送部でラジオを行うことだった。 中学時代は別の部活に所属していたから、当時は「高校生になった暁には、絶対に実現させてやる!」と意気込んでいた。 その意気込みが入部と同時に萎れることになるとも知らずに。 「ラジオ? うーん、それはちょっと厳しいかなあ」  それが、放送部として基礎を積み上げ、やがて意を決してラジオの提案をした私に、当時の部長が投げ渡した意見だった。 「厳しいって……どうしてですか?」  訊くと、部長は気怠げに欠伸をしながら言った。 「ほら、ここの放送部って勢力的な活動してないでしょ? 大会に出るわけでもないし、どこかの映像コンテストに作品を出すでもないし。 主な活動は学校のイベントにおける司会進行、お昼の放送くらい。 ……言ってしまえば、高校にとってこの放送部はあってもなくてもどちらでも良い扱いなんだよ。 そんな部活が、今になって大々的な活動をしたいって願っても周りの協力を得られるかどうか」  果たして部長が口にする言葉なんだろうかと疑った。 「じ、じゃあ、今から色んな大会とかコンテストに力を注げば──」 「それも無理かな」 「どうしてですか」 「他の部員にやる気は無いし、そもそも三年生だから半年もしない内にこことおさらばだからね」  実を言えば、私が入部した段階で先輩は全員三年生だった。 つまり彼女らが引退した後、部は私一人なのだ。 そうなると、尚更に周囲からの協力を得られるのは難しくなるわけで。  呆然とする私に、部長は気怠さを崩さずに続けた。 「ま、天音の頑張り次第ではどうにかなるかもだけどね」  *  あの部長の言葉を受けて、私は必死だった。  先輩達が引退するまで放送部の活動内容を掌握し、二年生の四月には部員を増やそうと必死に勧誘を行った。 まずは放送部を、部活としての形に作り上げなければならなかった。  同学年の誰よりも早く新入生の前に立って「放送部をよろしくお願いします」と頭を下げ、見学に来た子に放送部の魅力を伝えた。 それ以外では、昼の放送に小話を挿むなどして少しでも盛り上がるように努めた。 一人で活動するということは自由にできるわけで、私は次第に放送部の活動が好転してるいるような錯覚に囚われていた。  ──が、ご覧の通り、蓋を開けてみれば結果は散々だったのだ。  昼休みの短時間では私の思い描く理想のラジオはできない。 大会にもコンテストにも顔を出せない。 放送部の存在は前より認知される程度であり、に現状打破する力があるわけでもなく、着実に“要らないもの”扱いに成り下がっていた。  故に廃部という選択はひしひしと肌で感じ取っていたのだ。
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