Sound 3-1

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 ♢  文化祭までおよそ一ヶ月。  この日は私たちのクラスのみならず、どこのクラスも共通して帰りのホームルームに、とある会議が開かれていた。 「それでは改めて、話し合いで出た案を黒板に並べていきます」  壇上に立つクラス委員長が目配せすると、書記係が上手くも下手でもない字で、差し当たり勉学に励む空間には似つかわしくない言葉を書き連ねていった。  •お化け屋敷  •喫茶店  •縁日  •企画展示  今度は書記係が頷いて、委員長が話を進める。 「皆さんにこれから、この案の中から文化祭で行うクラス企画を選んでもらいます」  そう。 言わずもがな文化祭の一日をいかにして青春と呼ぶに相応しい物にするか、その話し合いが行われているのだ。  私の通う高校の文化祭は、毎年十一月の中旬に土日を使って開催される。 体育祭で運動部が活躍するなら、文化祭は文化部の出番と言えよう。 我が校の文化部は他の高校と同じくらいの数あるが、恐らく文化祭にかける情熱はどこよりも強い。 演劇部や吹奏楽部の催しもさることながら、特に力を入れるのがクラス企画だ。  クラス企画とは聞こえは良いが、なんとなく文化祭の雰囲気にあてられて作り上げられる物ではない。 保育園のお遊戯感覚で行われないのが、この高校におけるクラス企画なのである。  というのも、各クラス企画にはお客さんによる投票システムなるものが存在し、最終日に投票結果を基にどれが優秀であったか表彰されるのだ。  故に大半のクラスメイト(主に女子)は、この時期になると目の色が変わる。 一人でも怠けるような人間がいれば容赦なく排他する──とまではいかずとも、それに似た空気が教室を漂うのだ。  中学でいう合唱コンクールと思ってくれていい。  因みに私が一年生の時は喫茶店をやった。 「クラス企画は他のクラスと被ってはならない」というルールが無いことから、たしか一学年全てが喫茶店を開いていなかっただろうか。 あれはあれで「他のクラスより質の良い喫茶店にするぞ」と団結して楽しかった。
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