Sound 3-1

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「天音は何にする?」  ──と、私の前に座るアオイがこちらを振り返り、椅子の背もたれに肘をかけて訊いてきた。  どうやら回顧してるうちに各々で話し合うような指示がなされたらしい。 さすが文化祭関連の話題と言うべきか、クラスメイトの交わし合う言葉の端には興奮が窺える。 私は上体を背もたれに預け、軽く腕を組んで唸った。  今、意見を求められているのは私なのだが、即答は不可能に近い。 列挙された案がピンと来ないからではなく、寧ろその逆で、どれも楽しそうで選べないのだ。  そのため、私は意思決定までの食いつなぎとしてアオイに訊き返した。 「アオイはどれにしようと思うの?」 「あたしはお化け屋敷かなぁ。 ほら、演劇部として滾るものがあるじゃない?」 「と、言いますと」 「仮にも他のクラスがお化け屋敷を選んだとして、お客さんから一票でも多く投票してもらうには何が必要だと思う?」 「そうだなぁ」もたげた視線を天井の隅に固定して、「いかに怖くさせるか、かな」 「そうっ! お化け屋敷なんだから怖くさせなきゃ意味ないでしょ。 で、怖くさせるためにはそれなりの演出が大事なの。 あたし、演劇部でそういうこともしてるから腕には自信あるのよ」 「へえ」  熱心に語るアオイを前にして、私は素直に感心した。  自分の中に蓄えた経験値を能動的に生かそうとする姿勢は、褒めて然るべきなのではなかろうか。 いや、まあ、部活に関連していることだから当たり前と言われればそれまでなんだけど、それでもアオイから溢れ出す熱意に私は拍手を送った。 無論心の中で、だ。 「ま、お化け屋敷にならなくてもあたしのスタンスは変わんないけどね。 でもやっぱりお化け屋敷が一番やりたいことだよ。 それで改めて、天音は何がしたい?」  これは水を向けられたような気がするけれど、私はアオイの熱意を受け止めた時点で選択肢は一つだけだった。
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