Sound 3-1

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 ♦︎ 「──それでね、能鷹くん」  二階は特別教室にて。  いつも僕が耳にしているのとは違う声色が、がらんとした教室に響いていた。  部屋の中央に並べた向かい合わせの座席。 僕の正面には二組の女子──名前は忘れた──が毅然とした様子で座っている。 何なら、最初からここが自分の教室であったかのようにすら見える。  彼女──二組の委員長とも言った──は、組んだ両手を机に乗せ、こちらの胸裏を見透かすような双眸で続けた。 「およそ一ヶ月後に、文化祭があるんだ。 それは知ってるよね」 「……まあ」  毎年一回行われる祭典。 体育祭と肩を並べる程のビッグイベントだ。 いや、体育祭に比べ自らの能力を発揮しやすい点では、文化祭の方が一つ上手(うわて)か。  そんな話を持ち出した委員長に対し、僕は一つの疑問が浮かべた。 が、それを口にする前に委員長が先に口を開く。 「今年の二組は、演劇をやることにしたの」 「……演劇?」 「そう。 演劇部の子を中心に、白雪姫をね」 「……はあ」 「基本的な役割はあらかた決まったんだけど、ナレーター枠がまだ空いてるんだ。 それは誰も立候補しなかったからじゃなくて、能鷹くん、君のために空けてあるんだよ」 「……僕の、ために」 「先日の放送は聞かせてもらったよ。 やはり君の声は人の心を掴むに相応しい。 君がナレーションしてくれれば、私たちの演劇は間違い無く成功する。 どうかな、協力してくれやしないだろうか」  まさに委員長といった言い回しをするもんだ。  そして同時に、僕の脳内にあった疑問──なぜ、その話を僕にしたのか、が解明された。
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