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「──それでね、能鷹くん」
二階は特別教室にて。
いつも僕が耳にしているのとは違う声色が、がらんとした教室に響いていた。
部屋の中央に並べた向かい合わせの座席。 僕の正面には二組の女子──名前は忘れた──が毅然とした様子で座っている。 何なら、最初からここが自分の教室であったかのようにすら見える。
彼女──二組の委員長とも言った──は、組んだ両手を机に乗せ、こちらの胸裏を見透かすような双眸で続けた。
「およそ一ヶ月後に、文化祭があるんだ。 それは知ってるよね」
「……まあ」
毎年一回行われる祭典。 体育祭と肩を並べる程のビッグイベントだ。 いや、体育祭に比べ自らの能力を発揮しやすい点では、文化祭の方が一つ上手か。
そんな話を持ち出した委員長に対し、僕は一つの疑問が浮かべた。 が、それを口にする前に委員長が先に口を開く。
「今年の二組は、演劇をやることにしたの」
「……演劇?」
「そう。 演劇部の子を中心に、白雪姫をね」
「……はあ」
「基本的な役割はあらかた決まったんだけど、ナレーター枠がまだ空いてるんだ。 それは誰も立候補しなかったからじゃなくて、能鷹くん、君のために空けてあるんだよ」
「……僕の、ために」
「先日の放送は聞かせてもらったよ。 やはり君の声は人の心を掴むに相応しい。 君がナレーションしてくれれば、私たちの演劇は間違い無く成功する。 どうかな、協力してくれやしないだろうか」
まさに委員長といった言い回しをするもんだ。
そして同時に、僕の脳内にあった疑問──なぜ、その話を僕にしたのか、が解明された。
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