Sound 3-1

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「……ナレーションってことは、ステージに上がる必要があるってことかな」 「まあ、生の音声が一番良いことに変わりはないからね」  委員長はそう言うも、「だけど」と前屈み気味になっていた上体を起こす。 熱意が少し冷めた気がする。 「能鷹くんの意思に合わせるよ。 ステージに上がりたくないのであれば、私は録音した声を流しても良いと思ってる」  その言葉には、僕への慮りが見て取れた。  恐らく委員長は僕がステージに上がることを期待しているんだろう。 だからこそ後者の案には、が含まれていた。 ただ残念なことに、前者は今の僕には無理なことだった。  人前に出るのは、あんまりハードルが高すぎる。  このことをそれとなく告げると、彼女は特に食い下がることなく「分かった」と頷いた。 僕の意思尊重を呈した手前、そうせざるを得なかったようにも見える。  了承を告げる刹那、憂いを(たた)えたような気がしたのだ。 「それじゃ、台本が完成したらまた持って来るよ」  委員長が席を立ち上がり教室を後にしようとする──その直前、僕のことを振り返ってこう言葉を残した。 「協力してくれてありがとう」  そっと教室の扉が閉められる。  再び一人になり、人の温もりが散り散りなる教室で僕は気付いた。  彼女からの提案を受けた際、僕の思考回路に“否定”の二文字が浮かんでいなかったのである。
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