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「……ナレーションってことは、ステージに上がる必要があるってことかな」
「まあ、生の音声が一番良いことに変わりはないからね」
委員長はそう言うも、「だけど」と前屈み気味になっていた上体を起こす。 熱意が少し冷めた気がする。
「能鷹くんの意思に合わせるよ。 ステージに上がりたくないのであれば、私は録音した声を流しても良いと思ってる」
その言葉には、僕への慮りが見て取れた。
恐らく委員長は僕がステージに上がることを期待しているんだろう。 だからこそ後者の案には、あまり良くない選択肢としてのニュアンスが含まれていた。 ただ残念なことに、前者は今の僕には無理なことだった。
人前に出るのは、あんまりハードルが高すぎる。
このことをそれとなく告げると、彼女は特に食い下がることなく「分かった」と頷いた。 僕の意思尊重を呈した手前、そうせざるを得なかったようにも見える。
了承を告げる刹那、憂いを湛えたような気がしたのだ。
「それじゃ、台本が完成したらまた持って来るよ」
委員長が席を立ち上がり教室を後にしようとする──その直前、僕のことを振り返ってこう言葉を残した。
「協力してくれてありがとう」
そっと教室の扉が閉められる。
再び一人になり、人の温もりが散り散りなる教室で僕は気付いた。
彼女からの提案を受けた際、僕の思考回路に“否定”の二文字が浮かんでいなかったのである。
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